ニホンナシのみつ症は,果実成熟の進行に伴い果肉の褐変化などの症状を呈する生理障害である.みつ症の発症を遺伝子レベルで理解するためには,みつ症を起こす再現性の良い実験材料を作り,収穫時に確実にみつ症を発症する果実(みつ症感受性系統)と,みつ症を確実に発症しない果実(非感受性系統)を比較することで,発症前から収穫時までの経時的な遺伝子発現解析を網羅的に行うことが必要である. 本課題では,ニホンナシ品種‘豊水’x‘豊月’のF1系統群から見いだした,みつ症の「感受性系統17-26」と「非感受性系統17-3」について,みつ症の感受性系統と非感受性系統における遺伝子発現様式について,マイクロアレイ解析によりみつ症発症前から経時的に比較した。 マイクロアレイ解析により,両系統での遺伝子発現様式を比較した.感受性系統で高発現する遺伝子として,beta-fructofranosidase(invertase)の2遺伝子などがみられた.この結果は感受性系統のみつ症部位ではスクロース量が低下することと一致するものである.その他,感受性系統で高発現する遺伝子として,metallothionein様タンパク質,chitinaseなどがみられた.また,感受性系統で低発現の遺伝子として,monosaccharide-sensing protein遺伝子がみられた.metallothioneinは,他のみつ症感受性系統でもみつ症発症直前に高発現することが知られており,これらの遺伝子群がみつ症発症に関連する可能性が高い.今後はこれらの結果をリアルタイムPCRにより検証するとともに,より多様な品種・系統を用いてみつ症に関連する遺伝子群の絞り込みを行う予定である.
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