研究課題/領域番号 |
24780048
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
井下 強 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (20601206)
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キーワード | 生体イメージング / 嗅覚情報処理機構 / 神経活動記録法 |
研究概要 |
昨年度までで、嗅覚応答記録がほぼ終わり、今年度は、中枢における介在神経を介した嗅覚情報伝達機構と処理経路の同定を目的として研究を進めた。しかし、これまで使用していた機器の使用が難しくなったことと、介在神経の活動を観察するための新たな観察法を確立する必要があったため、今年度は、取り出した脳を利用し、シナプス小胞分泌を観察する生体イメージング法の確立を目指し実験を始めた。VMAT-pHluorinは、シナプス小胞の分泌に応じて蛍光を発する蛍光タンパク質である。中枢の特定の神経細胞でVMAT-pHluorinを発現させ、蛍光シグナルを観察したところ、自発的な神経応答を反映していると考えられる蛍光が観察できた。そこで、新規のシナプス分泌を記録するため、強い蛍光の照射によるPhoto-Bleachを行い、自発的神経活動に依存した蛍光を退光させたのち、蛍光シグナルの回復を記録した。神経活動に異常が生じるタンパク質・変異体parkinを発現させた神経において、この手法で新規のシナプス分泌を観察し、退光後の蛍光の回復が低下することを確認した。この結果から、この手法を利用することで、分子遺伝学的・薬理学的手法により嗅細胞や介在神経の神経活動を操作した時のシナプスを介した情報伝達の記録が可能となった。また、嗅細胞や介在神経の神経活動を任意のタイミングで制御するため、温度感受性のチャネルタンパク質TrpA1やshibireを神経で発現させ、神経応答を操作するための温度刺激の与え方も確立している。これらの手法を組み合わせることで、嗅覚情報伝達回路網の詳細な情報伝達・処理機構の解明が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、中枢の神経伝達・情報処理機構を解明する予定であった。しかし、これまで利用していた機器や手法では、脳の表面にある嗅覚葉の神経活動の記録は可能であったが、より深い領域の神経活動の記録は難しかった。さらに、これまで使っていたカルシウム感受性蛍光タンパク質の利用では、情報伝達に至る活動電位の発生を完全に記録することができないため、活動電位の記録やシナプス分泌を指標に神経活動を記録する手法を新たに確立する必要があることが判明した。これらの問題に対処するため、取り出した脳を利用した生体イメージング法の確立とシナプス小胞分泌を蛍光シグナルで記録できるVMAT-pHluorinの利用、任意に神経活動を制御することが可能なtrpA1やshibireの利用法を確立する必要があった。これらの手法を確立するため、当初の予定より実験の進捗がやや遅れているが、いずれの手法も既にほぼ確立できていることや、シナプス分泌といった実際の神経情報伝達を記録する手法を確立できたことで、当初の予定以上の詳細な解析が可能となっている。研究期間を延長したことで、当初の目的を更に進めた結果を得ることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、新たな実験手法の確立に時間がかかったが、結果的に、当初の計画以上に詳細な神経伝達の記録が可能となった。そこで、今年度は、嗅細胞を起点とした、中枢における嗅覚情報処理機構の解明を進める。匂い刺激は、それ自身が神経細胞の膜組成やイオン組成に影響を与える可能性が考えられるが、VMAT-pHluorinを利用したシナプス分泌記録法では、膜組成やイオン組成の変化の影響があっても、シナプス伝達が起きない場合は、蛍光シグナルの変化が記録されないことから、匂い刺激に対するアーティファクトな応答を排した神経伝達を記録することが可能である。また、温度刺激応答性チャネルTrpa1やshibireを利用することで、匂い刺激を使用せずに嗅細胞の神経活動を誘導することもできるようになったため、より簡便な実験手法で、嗅覚情報伝達機構を解明することができるようになっている。これらの手法を利用し、まずは、嗅細胞からの情報を受けてシナプス分泌が誘導される介在神経や2次神経を同定し、次に、それらの神経間の神経伝達を阻害し、嗅覚情報間の抑制/増強機構を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は、当初予定していた研究遂行のための実験手法確立を主に行ったため、予定していた実験動物の購入や飼育・研究発表。論文執筆のための予算を使用しなかった。実験手法が確立できたので、次年度は、予定していた予算の使用が必要となる。 実験動物である遺伝子組み換えハエの購入と飼育費用、実験に使用する試薬、器具代、得られた結果の発表(学会発表・論文執筆)に助成金を使用する。概算で、ハエの購入・飼育(エサ代・飼育のための人員への謝金)に60万円、実験器具代10万円、研究成果発表に10万円を予定している。
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