研究課題/領域番号 |
24780049
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人農業環境技術研究所 |
研究代表者 |
釘宮 聡一 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物多様性研究領域, 主任研究員 (10455264)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | コナガサムライコマユバチ / アブラナ科植物 / 花香 / 揮発性物質 / 情報利用 / 寄主探索 / 行動可塑性 / 昆虫-植物間相互作用 |
研究概要 |
寄生蜂コナガサムライコマユバチは、アブラナ科植物の重要害虫であるコナガの幼虫に寄生する。本寄生蜂の雌成虫は、寄主体液摂取 (host-feeding) を行わず、花蜜などを餌として利用していると考えられる。寄主幼虫の食草であるアブラナ科植物の花は、最も手近にある餌源のひとつであると予想される。Brassica 属の一員であるコマツナの花からヘッドスペースに放出される匂い(揮発性成分)を吸着剤 (Tenax TA) でダイナミック捕集し、これをエーテルで再溶出して試料溶液を調製した。この溶液をダミーの花に塗布して呈示すると、空腹の寄生蜂はこのダミーに対して選好性を示すことを確認した。この行動試験で用いた個体は、過去に花香を経験したことが無いことから、寄生蜂が示した反応は生得的なものであると示唆される。 次に、昼間の花香と夜間の花香を捕集して同様の方法で試験すると、空腹の寄生蜂は昼間の花香に対して有意な選好性を示したのに対し、夜間の花香に対する寄生蜂の選好性は観察されなかった。そこで、花から経時的に捕集した揮発性成分を GC-MS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)で分析し、花香成分の放出動態を調査した。その結果、テルペン類や芳香族化合物群の放出量が昼間と夜間で顕著に増減することが判明した。 市販の標準品を用いて、各成分を単独で行動試験に供したところ、空腹の寄生蜂はテルペン類と芳香族化合物群の双方に対して濃度依存的に反応した。また、蜜源が存在していないにも関わらず、ダミーに定位した個体の多くが採餌行動をとる様が観察された。花香成分が寄生蜂の餌探索から摂食にいたる一連の行動に強い影響を及ぼすことが明らかとなった。 本研究で得られた成果について、学会や研究会等(国内2件・海外1件)において発表した。また、関連する研究成果を学術誌および機関紙にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究実施計画の通り、コマツナの花香成分を捕集・分析し、明らかになった成分の標準品を用いて寄生蜂の誘引性を行動試験で評価した。その結果、寄生蜂が利用する複数の餌探索キューを特定できた。当初、予想していたテルペン類だけでなく、芳香族化合物にも寄生蜂の誘引性があることを見出した。 次年度以降に本格的に取り組む予定である、匂い生産関連遺伝子を操作したシロイヌナズナを用いた行動試験については、前倒しで開始することも当初には検討していたが、花香の化学分析と寄生蜂の行動試験に予想以上の進展が見られたことから、さらにその詳細なデータを取得することを優先し、予定に戻って翌年度以降に取り組むこととした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果を受け、これを論文として公表する前に、特許申請するための準備を進めているところであり、早期にそれを完了する。 次年度以降では、春咲きの菜の花類に加えて、多年生アブラナ科雑草等についても、同様に花香成分を分析し、寄生蜂の餌探索キューを明らかにすることで、植物種間での比較検討を試みる。そして、植食性昆虫による葉の食害に伴って、花香成分の組成が変化するのか、また、どのように変化するのかを調べ、それが植食性昆虫(害虫)や捕食性昆虫(天敵)に及ぼす直接的あるいは間接的な影響について検討する。これらを通して生物間相互作用の観点から、花の機能的意義を再評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
多数の検体から花香成分を効率良く捕集するためには、多くの吸着剤と捕集システム一式が必要である。また、化学分析の際には、熱脱着した成分を急速に冷却濃縮して分析器へ導入するのに液体窒素が必要であり、分析を繰り返すほどに大量に消費することとなる。それらを購入するために、多くの費用を計上していた。菜の花類の開花は3-4月に最盛期を迎えるため、そのタイミングに高頻度で捕集・分析できるよう液体窒素の購入費用を残す必要があることから、その費用を次年度に繰り越した。次年度も引き続き、多検体の花香成分を捕集・分析する計画であることから、繰越金と合わせて、そのための予算を多く計上している。
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