研究課題/領域番号 |
24780049
|
研究機関 | 独立行政法人農業環境技術研究所 |
研究代表者 |
釘宮 聡一 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物多様性研究領域, 主任研究員 (10455264)
|
キーワード | 植物-昆虫間相互作用 / イヌガラシ / コナガサムライコマユバチ / 情報化学物質 / 花香 / 揮発性物質 / テルペン / 芳香族化合物 |
研究概要 |
多年生のアブラナ科植物であるイヌガラシから採取した花序を水差しにし、放出される揮発性成分を吸着剤 (Tenax TA) へ引き込むことでダイナミック捕集を行った。また、花序を切り取った残りのロゼッタ葉についても、同様の方法で揮発性成分を捕集した。捕集した成分を熱脱着法でガスクロマトグラフ-質量分析計 (GC-MS) へ導入することにより分析比較し、複数の花香成分を明らかにした。尚、切り離した直後に捕集を行ったことから、傷害によって誘導される抵抗性発現に伴う揮発性成分の変化は、花序とロゼッタ葉ともまだ生じていなかったと考えられる。コマツナの花香では花に特異的な芳香族化合物が少なからず含まれていたのに対し、イヌガラシの花香ではそれらがほとんど検出されず、ロゼッタ葉から放出される多様なテルペン化合物のうちの数成分によって主に花香が構成されていた。バイオマスあたりに換算すると、それらの成分は葉よりも花から高濃度で放出されていると考えられる。 イヌガラシで明らかになった花香成分について、各々の標準品を用いて寄生蜂コナガサムライコマユバチ雌成虫の選好性を行動試験で評価した。各成分に徐放性を与えるため、triethyl citrate を溶剤として一連の濃度で溶液を調製した。空腹の雌はいずれの成分についても、高濃度の溶液に対して選好性を示す傾向があった。一方、満腹の雌ではそうした選好性が明確には認められなかった。これらのことは、本寄生蜂が様々な香気成分を情報として利用でき、それらが高濃度で存在する場合に餌源と結び付けて探索していることを示唆する重要な知見といえる。また、害虫の天敵である寄生蜂の行動を制御する農業技術を開発するヒントとなる。 本研究で得た成果を学会や研究会等(国内3件、海外1件)で発表した。また、本成果の一部と関連して特許を出願した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画の通り、多年生アブラナ科雑草であるイヌガラシの花香成分を化学分析で明らかにした。また、代表的な複数成分について、標準品を用いた行動試験で寄生蜂の選好性を確認している。コマツナと異なるイヌガラシの花香成分に対しても同様に寄生蜂が選好性を示すことから、餌を探索する寄生蜂における化学情報利用の柔軟性を示唆する興味深い知見を得ることができた。尚、triethyl citrate を溶剤に用いて成分の徐放性を与えることで植物の成分放出を模倣することができたため、多くの標準品を用いて行動試験データを収集することを優先し、匂いの形質を操作した遺伝子組換え植物の作出を行わなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
イヌガラシの花香成分が分析可能となったことから、今後これを材料に用いて計画通りに研究を進める予定である。ロゼッタ葉が植食性昆虫(主にコナガ幼虫)に食害されたときに、花香成分の組成が変化するのかどうか、変化する場合にはどのような変化が起こるのかを主に解析する。また、健全な花株と食害された花株に対して寄生蜂が示す選好性などを行動試験で明らかにする。このように花香成分に注目した解析を通して、花の形質が捕食者(天敵寄生蜂)や植食者(害虫)へ直接的・間接的に与える影響を評価する。新たに得られる成果については、一部を特許の優先権主張に盛り込むことを検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
菜の花やイヌガラシ等のアブラナ科植物は3月から5月にかけて開花し始め、その時機にあわせて花香の捕集・分析を高頻度で行わなければならないため、昨年度と同様、そうした実験に必要な器具、試薬、研究用ガスの購入費用を次年度に繰り越した。 花が一斉に開花する年度の始めに、花香成分を捕集するのに必要なガラス器具や固定器具、チューブ、空気を浄化する脱臭剤などを主として購入する。また、GC-MS 分析に必要な研究用ガスや付随する器具などの消耗品も多く購入する予定である。
|