アゲハチョウ科の雌成虫はふ節の味感覚子で産卵刺激物質(味物質)を受容、識別し厳密な寄主選択を行う。寄主植物葉に含まれる産卵刺激物質は同定されているが、複数の物質が混合して初めて産卵刺激活性を持ち、その受容メカニズムは謎である。申請者は、アゲハチョウ科3種の化学情報受容メカニズムを解明するため、電気生理学的手法による雌成虫ふ節感覚子の産卵刺激物質受容機構の解明を目指してきた。 申請者はすでに、ナミアゲハふ節感覚子の産卵刺激物質に対する電気生理学的応答を調べ、感覚子内の3種類の味細胞が産卵刺激物質に特異的に応答し、それらの味細胞が同時に興奮することが産卵行動誘発に必要であることを解明した(Ryuda et al. 2013)。本申請では、他の2種のアゲハ(クロアゲハ・シロオビアゲハ)のふ節感覚子の産卵刺激物質への応答を調べ、アゲハチョウ科3種の寄主選択機構の共通性もしくは多様性を明らかにし、寄主選択機構による種分化の過程を考察することを試みた。 該当年度の研究成果として、2種のアゲハ(クロ・シロオビ)の産卵刺激物質受容機構を解明するため電気生理学的解析を行った結果、2種のアゲハともに、電気生理学的応答を示す産卵刺激物質、味物質として認識されていない産卵刺激物質が存在することがわかった。応答が確認できた産卵刺激物質のスパイク解析により、2種のアゲハ(クロ・シロオビ)ともに産卵刺激物質に応答するふ節感覚子内の味細胞数は3つである可能性を示す結果を得た。 本研究成果によって、アゲハチョウ科3種は、産卵刺激物質の受容の特化した3種類の味細胞(神経細胞)を持ち、それらの味細胞の同時的発火(興奮)により産卵行動を制御するといった共通の制御機構を持つ事が示唆される。また、本研究成果は、これまで昆虫の味覚研究では見つかっていない新規の味覚を介した行動調節メカニズムを提示している。
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