根粒菌は植物に共生すると根粒内でバクテロイドに分化し、細胞増殖が抑制され窒素固定能を獲得する。バクテロイドはペリバクテロイド溶液(PBS)に包まれており、PBSにはバクテロイドへの分化を引き起こす物質が含まれていると考えられている。ダイズ根粒菌Bradyrhizobium japonicum USDA110のblr7984遺伝子は転写産物がTetR型リプレッサーと推定されるが、PBS中で培養することによって発現が減少するため、この遺伝子破壊株が作成され共生関係における遺伝子発現制御への関与を調べることとなった。本研究では、破壊株の網羅的遺伝子発現解析および形質の調査を行なった。blr7984遺伝子破壊株は野生株と比較して単生時の細胞増殖速度の上昇が観察された。cDNAマイクロアレイ解析の結果、破壊した遺伝子に隣接するbll7981、bll7982、bll7983の発現量が大きく増加していることが明らかになった。また単生状態においては98の遺伝子が野生株と比較して発現増加していたが、その中には、呼吸に関与するサイトクロームオキシダーゼや鞭毛形成に関与する遺伝子などが含まれており、これら遺伝子と細胞増殖速度上昇との関係が示唆された。blr7984遺伝子破壊株をダイズに接種すると、栽培3週目の植物体あたりの根粒重の低下およびその栽培5週目での根粒数の増加を示した。マイクロアレイの結果、共生状態では野生株と比較して発現上昇していた遺伝子はbll7981、bll7982、bll7983のみだった。bll7983がコードするグルタチオントランスフェラーゼは細胞分裂、根粒形成および窒素固定とも深い関係があることが報告されているため、この遺伝子が形質の変化をもたらした要因である可能性は高いと考えられた。今後はbll7983の過剰発現株を作成し形質を調査することで、この仮説を検証して行く。
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