放線菌S. griseusにおいて、A-ファクター制御カスケードにおける主要な転写活性化因子AdpAは、形態分化・二次代謝関連遺伝子群の制御に必須である。特定の培養時期にてAdpAによって発現活性化されるこれら遺伝子群は、その機能に応じて細胞内の異なる部位にて発現している必要があると思われる。 しかし、その詳細は不明である。本年度においては、AdpAの菌糸内における経時的発現分布と局在、およびAdpA依存性の形態分化もしくは二次代謝関連遺伝子群の経時的な発現分布と局在を、蛍光顕微鏡を用いて細胞レベルにて明らかにすることを目的として、共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いた顕微鏡観察の手法開発と各種融合遺伝子の構築、ならびにストレプトマイシン分泌装置、StrV/StrWの機能解析を行った。その結果、顕微鏡観察手法の観察については当初の計画をほぼ達成することができ、構築した解析手法によって、以下のような成果を得た。 1)AdpAの構造遺伝子の転写はほぼすべての菌糸にて認められたが、AdpAタンパク質は気中菌糸(胞子鎖)には存在しないことが判明した。 2)AdpA依存性遺伝子のうち、adsA遺伝子の転写に由来するレポータータンパク質(mCherry)の蛍光は気中菌糸の「根元」、いわゆるsubapical stem付近と気中菌糸に認められた。形態分化に必須なadsAの転写にこうした菌糸内部位特異性が認められたことは本研究が初めてである。 3)ストレプトマイシン分泌装置と予想されていたStrV/StrWについて、これらが実際にストレプトマイシン分泌に寄与していること、ならびに菌糸細胞膜に両者が共局在していることをFRET(Fluorescence resonance energy transfer : 蛍光共鳴エネルギー転移)観察によって示した。本成果は学会にて発表し、かつ、平成25年度中に論文として投稿予定である。
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