ワイン産膜現象の汎用的な防止方法は未だ開発されていない。研究代表者らは野生産膜性酵母によるワイン産膜現象に、FLO11遺伝子が必須であることを見出している。本研究は、野生産膜性酵母においてFLO11の発現を制御する産膜シグナル伝達経路を解明し、革新的なワイン産膜防止法の開発に応用することを目的として行った。 まず、山梨県内のワイナリーで分離された野生産膜性酵母株において、産膜とFLO11 mRNAの発現がグルコース含有培地において抑制されることを明らかにした。さらに、FLO11のプロモーターを構成的プロモーターに置換した株はグルコース含有培地や高濃度のグルコースを含有するワインにおいても産膜したことから、FLO11のグルコース抑制が野生産膜性酵母による産膜を制御していることを明らかにした。さらに、グルコースシグナル伝達経路の下流に存在する転写活性化因子Flo8pをコードするFLO8遺伝子の破壊株が産膜しなかったことから、実際のワイン産膜防止のための標的因子としてFlo8pを同定することに成功した。 また、野生産膜性酵母と非産膜性の実用ワイン酵母の産膜能相違を引き起こす要因の解析を行い、産膜能の相違は実験室酵母S288C株でみられるFLO8におけるナンセンス変異によるものではないことを明らかにした。さらに、FLO11プロモーターに存在する111 bpの転写抑制配列が、野生産膜性酵母株においては欠損していることを明らかにした。この111 bp配列は、日本から地理的に離れたヨーロッパでシェリー型ワインの製造に用いられる複数の実用産膜性酵母株においても欠損していることから、産膜能相違を引き起こす要因であることが示唆された。 本研究で得られた知見から、Flo8pの阻害物質をワイン中に分泌するワイン用酵母や乳酸菌が、革新的なワイン産膜防止法の開発に有用であると考えられた。
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