放線菌の二次代謝は、ホルモン様低分子シグナルにより誘導され、多彩な生物活性物質を産み出す。研究代表者は、ブテノライド型誘導因子を有用駆虫薬エバメクチン生産菌Streptomyces avermitilisより単離・構造決定し、新たな二次代謝制御カスケードの存在を報告した。本研究では、1.ブテノライド型因子が二次代謝をどのように誘導するのか?という制御カスケードの解明、2.ブテノライド型因子が作動する放線菌群の推定とその添加による二次代謝の覚醒、を目的とした。 本年度は、ブテノライド型因子受容体相同遺伝子avaR2の破壊株表現型を詳細に解析した。エバメクチン生産が減少したavaR2破壊株では、胞子形成能が70%以上、低下していたことから、avaR2は同様の受容体相同遺伝子avaR3と協同して、形態分化に関与することが判明した。また、転写解析により、AvaR2はavaR遺伝子とブテノライド型因子合成遺伝子に対しては負の、またエバメクチン生産制御因子に対しては正の転写調節をすることが分かった。したがって、ブテノライド型誘導因子と3つのavaR遺伝子から構成される相互転写ネットワークが、エバメクチン生産システムを巧妙に司っていると結論し、新たな二次代謝制御モデルを構築することに成功した。 2つ目に、ブテノライド型因子を各種放線菌に投与し、二次代謝能の変化を解析した結果、逐次的なシグナル添加が二次代謝プロファイルを変化させることが分かった。 最後に、前年度までに明らかにしたブテノライド型因子産生活性を示す放線菌について、その遺伝子情報を解析した結果、シグナル因子受容体遺伝子またはシグナル因子生合成遺伝子と相同性を示す遺伝子群をいくつかの放線菌にて確認した。したがって、これらの放線菌は、ブテノライド型誘導因子制御系の普遍性を証明するモデル放線菌になり得ると考えられる。
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