研究課題
微生物にとって、窒素同化はアミノ酸生合成に不可欠な要素であり、この効率化をタンパク質合成等の物質生産に生かすことができれば非常に有益となる。ゲノム領域が大幅に欠失している枯草菌MGB874は、正常に生育し、転写制御等も野生株とほぼ同様でありながら、外来タンパク質合成が増進されるという、物質生産に極めて有利な特徴を有している。これまでの解析から、MGB874ではグルタミン酸の顕著な蓄積が観察されており、グルタミン酸の関わる窒素同化こそが、MGB874の外来タンパク質合成の増進に繋がっていると考えられている。枯草菌野生株とゲノム縮小型株それぞれに関して、窒素同化に関わる代謝産物の量比を明らかにし、代謝のシステム的理解を目指す。今年度は、質量分析データ解析ソフトウエアであるAMDORAPの改良を行った。生データからピーク検出までの一括処理というこれまでの機能に加えて、新たにクロマトグラムピークの自動判別を実装した。具体的には、データの前処理時のノイズ除去手法としてガウシアンフィルタリング、二回微分ガウシアンの両手法を採用しこれを実装した。ノイズの多かったクロマトグラムのピークにおいて、信頼性の高い領域の抽出を可能にしている。これにより、例えば二つのピークを有しているフェニルアラニンにおいては、保持時間の異なる二つのピークの自動判別に成功している。以上の改良によって、メタボローム解析の解析基盤の構築が完了した(http://amdorap.sourceforge.net/)。さらに、窒素条件下での枯草菌の代謝物プロファイルの取得に向けて、培養条件の検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、代謝物データ解析ソフトウエアAMDORAPの改良を遂行した。当初の達成目標ではソフトウエアの改良を想定していなかったが、申請時には考え付くに至らなかったデータ解析手法の問題点を新たに発見したために、それを克服するべく新手法の導入を試行錯誤の上、実現した。この点に関して、非常に柔軟に対応できたと考えている。一方で、達成目標に掲げていた枯草菌の代謝物プロファイルの取得には未だ至っていない。窒素源としての試薬の選定ができていないことから、条件検討を早急に進める必要がある。さらに、グルタミン酸周辺の代謝反応の理解に向けて詳細な文献情報の整理に着手しており、当初の計画通り達成できていると考えている。
枯草菌の培養条件の検討をさらに進め、代謝物プロファイルデータの取得に早急に着手する予定である。さらに、数理モデル化にも着手し、より簡潔にシステムを記述できる数理モデルの構築を目指す。一方で、ゲノム縮小型株MGB874に関しては基礎的データが非常に少ないことから、更なる基礎データの取得が必要であると考えている。そこで、転写制御機構の基礎データ取得の研究計画を新たに検討している。
当初予定していた国内での研究打ち合わせをメール・電話などの手段によって行ったため、未使用額が生じた。次年度は、代謝物プロファイル取得のための培地、プラスチック類、試薬等の消耗品に使用する予定である。備品購入は予定していない。また、学会での成果発表のための国内旅費を予定している。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (3件)
Microbial Cell Factories.
巻: 12 ページ: 18
10.1186/1475-2859-12-18
DNA Research.
巻: March 29 ページ: online
10.1093/dnares/dst008
生物工学会誌
巻: Vol. 91 ページ: 109
Gene
巻: Jul 15;503(1) ページ: 56-64
10.1016/j.gene.2012.04.043
http://ht02.pf.chiba-u.jp/?p=332
http://ht02.pf.chiba-u.jp/?p=284
http://ht02.pf.chiba-u.jp/?p=264