研究課題/領域番号 |
24780076
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
井上 謙吾 宮崎大学, IR推進機構, 助教 (70581304)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 鉄還元細菌 / 芳香族化合物 / ダイオキシン / 嫌気性細菌 / 環境汚染物質 / 分解微生物 / 環境浄化 / 分解系遺伝子 |
研究概要 |
本研究では,ヘテロ環を有する芳香族化合物の分解代謝経路を明らかにすることを研究目的とし,カルバゾール(CAR)を唯一の電子供与体として利用できる嫌気性細菌Desulfovibrio 属細菌MC01株のCAR分解代謝経路の解明を試みている。代謝経路解明には十分量の中間代謝物を得る必要があり,これまで用いてきたCARを唯一の電子供与体,不溶性の酸化鉄(III)を唯一の電子受容体とした最少液体培地ではMC01株の生育は遅く,一か月以上の培養の後に定常期に達した培地における総菌体量も極めて少なかった。そこで,MC01株の大量調整が可能な培地を開発するため,炭酸緩衝液培地にCAR,乳酸,あるいは,酢酸が唯一の電子供与体,電子受容体としてはフマル酸,あるいは,硫酸イオンを用いた培地を調製し,MC01株の生育を測定した。その結果,乳酸を電子供与体,硫酸イオンを電子受容体とした培地(LS培地)では特に旺盛な生育が観察でき,約4日間程度で定常期に入ることが明らかとなった。よって,以降の実験においては,大量のMC01株菌体調整が簡便に行えるLS培地を主に用いることとした。生育に伴う基質の減少を観察するため,CARを電子供与体,電子受容体をフマル酸あるいは硫酸イオンとして3週間~半年間の培養後,培養液中のCAR濃度をGC-MSを用いて解析したところ,コントロール実験と比較しても有意なCARの減少は確認できなかった。これらの培地をMC01株のCAR分解と中間代謝物同定に用いるには,菌体量が十分でないことが考えられた。現在,MC01株によるCAR分解と中間代謝物の同定を確実に行うために,LS培地にて大量に調整したMC01株菌体を用いた休止菌体反応とそれに伴う基質の減少と中間代謝物の同定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MC01株の基質分解と中間代謝物の同定を行うにあたり,これまで用いていた培地を用いた場合,本株の生育速度が遅く,また,得られる菌体量も少なかったことが明らかになった。そのため,打開策としてより良い生育が観察できる培地の検討に時間を要してしまい,当初の計画よりもやや遅れてしまった。しかし,最終的に本株が旺盛に生育できる培養条件を見出すことに成功したので,今後は,その培養条件を利用することで,大量調整した菌体を用いた休止菌体反応や遺伝子組換系の構築などを予定されていた研究計画に沿って研究を遂行する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により,カルバゾールを分解する微生物の大量調製方法が確立できたので,今後は大量調製した菌体を用いて休止菌体反応を行って基質の分解とそれに伴って生産される中間代謝物の同定を試みる必要がある。また,分解微生物の遺伝子組換え系の構築も試みることで,破壊株ライブラリーの構築,それらの中から分解能力欠損株の取得と分解系遺伝子の同定も今後の課題である。さらに,分離した分解微生物の全ゲノム配列決定とデータベースとの比較などから分解系遺伝子の推定も試みる。また,MC01株以外の嫌気性カルバゾール分解菌,及び,ジベンゾフラン,ジベンゾチオフェン分解微生物についてもその分解能力を解析するために,今回構築した培養系などを利用して,残存基質の定量解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在行ている休止菌体反応とそれに伴う残存基質定量と蓄積中間代謝物同定のために必要と考えられる化学分析に伴う費用,及び,遺伝子解析(遺伝子組換え系構築やゲノム解析)に係る研究費が主なものになる。前者に関しては,必要に応じてHPLC,GC-MSなど共同利用機器を利用する上で必要となるカラムや消耗品類,後者に関しては各種分子生物学実験(キットや酵素,プラスチック製品など)とゲノム解析(パソコンとソフトウェア)に係る費用が必要である。また,本研究では嫌気性細菌を扱うため,そこで必要となる嫌気ガスや設備に係る費用も計上した。いずれも消耗品費(場合によって備品費)となる。
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