研究課題/領域番号 |
24780077
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
上村 聡志 青山学院大学, 理工学部, 助教 (10399975)
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キーワード | 圧力生理学 / 出芽酵母 |
研究概要 |
高圧増殖におけるEGO複合体の意義 液胞膜に局在するEGO複合体(Ego1,Ego3,Gtr1,Gtr2)は,高圧増殖において重要な機能を持つことが示唆されているが,その詳細は不明である.これまでに,EGO複合体が液胞膜近傍に存在するセリン・スレオニンキナーゼであるTOR複合体1(Tor1/Tor2(触媒サブユニット),Tco89,Kog1,Lst8)の機能に影響を与えることが報告されている.そこで,TOR複合体1の中で非必須遺伝子であるTor1とTco89の欠損株用いて高圧下で培養したところ,両変異体は高圧感受性を示した.キナーゼ活性の消失したTor1変異体の発現はtor1Δ変異体の高圧感受性を回復させることはできないため,Tor1のキナーゼ活性が高圧増殖に必須であることが明らかである.また,EGO複合体の欠損はTco89-GFPの局在が液胞膜から細胞質に変化させるため,液胞膜近傍でTOR複合体1がキナーゼ活性を保持していることが高圧増殖に必須であることを示唆した. 機能未知遺伝子の解析 機能未知遺伝子の内,MTC6とYPR153Wに着目して解析を進め,両タンパク質の膜トポロジーを実験的に明らかにした.また,Mtc6に関しては,N末側にタグを付加すると小胞体に局在し,その機能は保持されたが,C末側にタグを付加するとエンドソーム/液胞に局在し,その機能は消失した.従って,Mtc6は小胞体で機能していることが示唆される.一方でYpr153wに関しては,過去の網羅的解析からYpr153wと相互作用することが示唆されていたFrt1と,そのFrt1と複合体を形成するFrt2の2重欠損株(frt1Δfrt2Δ)が高圧感受性を引き起こすことを見出し,Ypr153wとFrt1/Frt2が協調して高圧増殖に関わっている可能性が示唆した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵母の圧力増殖において,EGO複合体の下流にTOR複合体1が存在することを明らかにできたことの意義は大きい.また,TOR複合体のセリン・スレオニンキナーゼ活性のみならず,液胞膜近傍に存在することが圧力増殖に必要であるという事実は,圧力増殖に特異的なシグナルカスケードがあることを期待させる.また,研究実績の概要では述べなかったが,野生型酵母において,高圧処理がTOR複合体1のキナーゼ活性を低下させることを示唆する実験結果も得られており,この作用が野生型酵母の高圧処理による増殖低下の一因になっている可能性もある. Mtc6に関しては,N末端側の切断に関する検討を通して,Mtc6の膜トポロジーだけでなく,Mtc6が小胞体で機能することとその細胞内局在を決定する領域が明らかになってきた.この成果は,Mtc6の機能を考える上で非常に有益な情報となる.Ypr153wに関しては,Ypr153wと相互作用する可能性が高いFrt1/Frt2複合体の欠損株が圧力感受性を示すことを見出したのは大きな進展である.Frt1/Frt2複合体の機能にはまだ不明な点が多いが,Ypr153wがこの複合体と協調して機能し,圧力増殖に関与している可能性が高いと考えている. ただし,ego1Δ株,mtc6Δ株,ypr153wΔ株の圧力感受性を回復させるマルチコピーサプレッサーのスクリーニングで思うような結果は得られていない.そのため,挿入変異挿入法による変異体解析に移行する必要がある. 予定していた実験が必ずしも順調に進んでいるわけではないが,それに変わる研究成果が得られている.そのため,少しずつではあるが出芽酵母の圧力適応メカニズムが明らかになってきている.
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今後の研究の推進方策 |
EGO複合体に関しては,現在進めている大腸菌を用いたEgo3の産生と精製を継続し,イノシトールリン脂質との相互作用を検討するのに加え,エラープローンPCRによりEgo3にランダム変異を導入し,高圧増殖におけるEgo3の機能部位を明らかにする.Mtc6に関しては,Mtc6に付加するアスパラギン結合型糖鎖が,機能に与える影響を調べ,さらにMtc6と相互作用する分子を膜タイプのイーストツーハイブリッドシステムでスクリーングする.Ypr153wに関しては,Ypr153wの小胞体局在化メカニズムを明らかにするとともに,Frt1/Frt2との関連性について解析を進める.また,ego1Δ株,mtc6Δ株の圧力感受性を回復させる挿入変異についてもスクリーニングの検討を行い,これら変異体の圧力感受性の原因を別の角度からも調べる. さらに,今後の研究の発展のため,申請した研究計画に記載していないが,動物細胞に対する圧力効果に関する検討を進める.特に細胞周期に与える影響を中心に解析する予定である.出芽酵母での研究成果を動物細胞に応用するため,動物細胞におけるEGO複合体のホモログについて,その遺伝子のノックアウトも試み,圧力に対する感受性の変化も検討したいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度よりも支出額は増加したが,前年度から繰越し使用額が少し多かったことと,実験に使用している試薬等や実験器具等の消耗品の節約による効果が合わさり,次年度使用額が生じた. この次年度繰り越し分は,本年度と合わせて,オリゴDNA,遺伝子増幅用酵素,制限酵素など遺伝子組換え実験に必要な消耗品や細胞培養用のプラスチック製品の消耗品に使用する,また,プラスミドベクターの購入にも使用する予定である.
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