研究課題/領域番号 |
24780081
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
佐藤 純一 東京農業大学, 応用生物科学部, 助教 (70439884)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 鉄 / 鉄還元酵素 / フラビン |
研究概要 |
鉄は通常三価の状態で存在するが、生物が生命活動を行う上で利用する鉄は還元された二価鉄である。三価鉄を二価鉄にする鉄還元反応は生物にとって必須の反応であるが、還元された二価鉄は活性酸素発生にも関与する。この鉄還元反応機構の詳細を解明することは鉄の利用、及び毒性を考える上で重要である。本年度は細胞内鉄還元反応への関与が示唆されている因子として、鉄還元酵素、細胞内タンパク質非結合(遊離)フラビン、細胞内鉄の候補として鉄貯蔵タンパク質について検討を行った。 1, 大腸菌とラン藻における鉄還元活性を有する酵素の探索:これまで大腸菌の無細胞抽出液から、既に報告済みの鉄還元酵素以外に3つの鉄還元活性を有する画分を得ている。3つの画分の中で最も鉄還元活性の高い画分の精製を試み、精製に成功した。一方、ラン藻の無細胞抽出液からは、既に報告済みの鉄還元酵素以外に鉄還元活性を有する画分は検出されなかった。以上から、大腸菌とラン藻の可溶性画分に存在する鉄還元酵素はそれぞれ5つ、もしくは2つであることが示唆された。 2, 大腸菌とラン藻の細胞内遊離フラビンの定量:大腸菌とラン藻の無細胞抽出液を調製し、タンパク質画分と非タンパク質画分に分画した。その後、HPLCを用いて定量を試みた結果、両菌体より遊離フラビンを定量することに成功した。 3, 大腸菌とラン藻の鉄貯蔵タンパク質の大量発現系の構築:各生物種由来の鉄貯蔵タンパク質を大腸菌で過剰発現させ、精製した。精製された鉄貯蔵タンパク質への鉄導入系を確立し、スペクトル変化の観察と導入された鉄を直接検出することにより、鉄が導入された鉄貯蔵タンパク質の取得に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた実験について、鉄還元活性を有する酵素の精製については現在も継続中であるが、他の二点(生体内遊離フラビンの検出および定量、鉄貯蔵タンパク質の取得)については、計画通り進行させ、成果を得ることができているため。
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今後の研究の推進方策 |
1, 引き続き大腸菌から鉄還元活性を有する酵素の精製を試みる。現在、大腸菌で検出されている鉄還元活性を有する画分はフラビン還元活性が強く、鉄還元活性をマスキングしている可能性がある。鉄還元酵素の多くはフラビン還元活性も有することから、今後はフラビン還元活性を指標として精製を試みる。精製完了後、精製酵素の諸性質を検討し、鉄還元活性を有するかについても併せて検討を行いたい。 2, 精製された鉄還元酵素、定量された遊離フラビン濃度、取得した鉄貯蔵タンパク質または各種鉄キレート化合物を用い、反応解析を試みる。まずは遊離フラビン濃度に着目し、定量された濃度において、遊離フラビンを介した鉄還元反応が起こりうるかどうかを検討するため、酵素とフラビン、もしくは鉄との反応速度論解析、遊離フラビン存在下、非存在下における鉄還元活性の比較検討などを行う。また、遊離還元フラビンが生成されたときの反応性についても検討を試みる。 3, 当初の予定では、細胞内における鉄の荷電状態、存在量を調査する予定であったが、代わりに貯蔵鉄以外の細胞内鉄(タンパク質非結合鉄)の同定を試みる。細胞内の鉄は、鉄貯蔵タンパク質に貯蔵されている鉄、タンパク質に補因子として結合している鉄、の存在が知られている。しかし、細胞内で鉄をキレートしている化合物は、候補はあるものの未だ同定されておらず、不明な点が多い。そのため、細胞内で鉄をキレートする化合物を同定することは、鉄の動態、鉄の毒性を考える上で非常に重要である。現在、この生体内鉄キレーターを同定するため、ゲル濾過を用いた検出法の立ち上げを行っている。コントロールとなる鉄化合物の検出に成功した後に、非タンパク質画分を用いて生体内キレーターの検出を試み、質量分析を用いたキレーターの同定を行う。その後同定した鉄キレート化合物を用いて鉄還元酵素との反応解析を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、鉄還元酵素、鉄貯蔵タンパク質を取得するのが年度末になってしまい、これらタンパク質の分析を目的として計上した費用を使用することができなかった。そのため、平成25年度においてこれら鉄還元酵素と鉄貯蔵タンパク質のアミノ酸分析、抗体の作製等を計画している。 これ以外の費用については、当初の計画通り使用していく予定である。
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