研究課題/領域番号 |
24780085
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
矢野 成和 山形大学, 理工学研究科, 助教 (50411228)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | α-1,3-グルカナーゼ / α-1,3-グルカン / 糸状菌細胞壁 |
研究概要 |
Bacillus circulans KA-304のα-1,3-グルカナーゼ(Agl-KA)は、N末端からDiscoidin domain (DS1 domain)、CBM6 domain、トレオニンとプロリンの繰り返し配列、DS2 domain、機能未知domain(UCD)と、C末端にGlycoside hydrolases family 87型酵素の触媒ドメインから構成されている。α-1,3-グルカン結合ドメイを明らかにするために、7種類の欠失変異酵素(⊿DS1、⊿CB6、⊿DS2、⊿UCD、⊿DS1-CB6、⊿DS1-CB6-DS2、⊿DS1-CB6-DS2-UCD)を作成した。欠失変異酵素のα-1,3-グルカン加水分解活性、基質結合活性、糸状菌細胞壁溶解活性を比較し、DS1、CB6、DS2の3ドメインがそれぞれα-1,3-グルカン結合能を有していることを明らかにした。 7種類GFP融合タンパク質(DS1-GFP、CBM6-GFP、DS-2GFP、DS1-CBM6-GFP、CBM6-DS2-GFP、DS1-DS2-GFP、DS1-CBM6-DS2-GFP)も作成し、基質結合活性、糸状菌細胞壁結合活性を調べた。その結果、DS1、CB6、DS2の3つが揃うことで、細胞壁に強固に結合できることが分かった。 Agl-KAの触媒ドメインのみから成る変異酵素⊿DS-CB6-DS2-UCDに、部位特異的変異を導入し、約20種の変異酵素を得た。変異導入することで、活性が著しく低下する変異部位を3箇所見出した。 Agl-KAの触媒機構を解明するための比較酵素の探索を行った。様々な環境サンプルからα-1,3-グルカン資化生菌を分離し、酵素生産能の優れたPaenibacillus属細菌を複数得た。これらから、Agl-KAと相同性の低いα-1,3-グルカナーゼの取得にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究実施計画では、Bacillus circulans KA-304のα-1,3-グルカナーゼであるAgl-KAの結合ドメインを明らかにすることが主たる目標であった。結合ドメインを明らかにする為に欠失変異酵素7種類の作成を目指して実験に取り組んだところ、短期間で大腸菌での発現系が確立でき、酵素の精製もスムーズに行えた。さらに、GFP融合タンパクを調製して、結合能の評価も行えた。結果として、DS1、CB6、DS2の3ドメインがそれぞれα-1,3-グルカン結合能を有していること、DS1、CB6、DS2が共働することで結合能が高まることを見出した。 上記の3ドメインは、α-1,3-グルカン結合に関わる新規のドメインであること、3ドメインが存在することでAgl-KAが優れた糸状菌細胞壁溶解活性を示すということを国際学会で報告し、英文誌にも掲載された。研究成果を報告できたことで、本年度の主たる目標を達成できたと考えている。 24年度は、Agl-KAの触媒必須アミノ酸を明らかにするために、C末端触媒ドメインの解析に着手することも目標の一つであった。なお、触媒必須アミノ酸の解明は、24年度と25年度にまたがって研究を実施する予定である。本年度の研究としては、約20種類の部位特異的変異の導入を行い、酵素の活性比較を行った。その結果、活性が著しく低下する変異酵素を3種類得られた。25年度で構造的な観点から検討を加えれば、反応に関わるアミノ酸を決定できる可能性が高く、研究目標達成に向けて前進した。 また、本年度は、Agl-KAの構造解析に利用できるPaenibacillus由来のα-1,3-グルカナーゼのクローニングにも成功している。この成果は、Agl-KAの触媒必須アミノ酸の解明にも役立つ。 以上の理由より、24年度の研究予定は、おおむね達成したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の実施期間は、24年度と25年度の2年間である。25年度は、前年度の成果をもとに、α-1,3-グルカンへの結合に関わるDS1、DS2、CBM6ドメインの詳細な機能解析を行う。これら3ドメインは、既知レクチンと相同性を有しているので、様々な単糖類や多糖類への結合能を調べる。この実験は、24年度に調製したGFP融合タンパク質を用いることで、速やかに研究が開始できる。既知のレクチンの構造と比較しながら、3ドメインに変異を導入する。変異タンパクの基質結合能を解析することで、α-1,3-グルカン結合機構の解明を目指す。さらに、細胞壁構成多糖が明らかな糸状菌や酵母に対して、GFP融合タンパク質の結合能を評価する。 Agl-KAの触媒必須アミノ酸に関する研究も、平成24年度から引き続き検討する。前年度の検討により、触媒必須アミノ酸の候補となる3アミノ酸を見出したので、CDスペクトル解析等の立体構造に関する研究も行う。研究開始当初は、ランダム変異導入による安定性や反応性の向上を目的としたが、前年度にAgl-KAと相同性の低いPaenibacillus由来α-1,3-グルカナーゼの取得にも成功したので、その酵素とAgl-KAの構造比較結果をもとに安定性や反応性の向上を目指す。 25年度の最終目的は、Agl-KAの改変である。上記の検討から得られたα-1,3-グルカン結合能に優れた変異結合ドメインと、安定性や反応性の向上した触媒ドメインを組み合わせる。また、不必要な領域の削除と基質結合と触媒反応がスムーズに行えるリンカードメインの導入を行う。α-1,3-グルカン分解活性を評価するだけでなく、糸状菌細胞壁分解活性も評価することで、糸状菌細胞壁溶解に適した改変型α-1,3-グルカナーゼを作製する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者の申請時の所属は立命館大学生命科学部であったが、24年度から山形大学大学院理工学研究科に異動した。そのため、24年度は、申請時に保有した実験器具や使用予定であった分析機器や培養機の利用が困難であった。分析機器に関しては、山形大学が保有する機器で代用できたが、微生物の培養や回収に必要な機器や器具が十分ではなかった。24年度は実験目標をおおよそ達成できたが、微生物の培養に関わる機器や器具が十分であれば、目標をさらに短期間で達成できたと考えている。 25年度の研究は、変異酵素の作製と解析が主となる。変異酵素遺伝子の発現条件を検討するためには、培養機器あるいは器具が必要ある。前年度の経験を活かし、それらを早急に揃える。変異酵素の精製は、24年度に購入したクロマトグラフィーシステムを用いることによって短時間で行える。さらなる効率化を図るために、高分離カラムや大型カラムを購入する。変異酵素の比較を行うには生成物の分析も必須であるので、HPLC用の糖分析カラムを購入する。 25年度の実施計画では、細胞壁溶解活性や細胞壁結合活性を蛍光顕微鏡で3次元的に観察するために、電動Z軸ステージを購入するとしたが、前所属機関から蛍光顕微鏡を移設することが困難なため、取りやめる。蛍光顕微鏡に関しては、山形大学が保有するもので代用できるので、その分の経費を不足する微生物の培養や回収に必要な機器や器具に充て、研究課題達成を目指す。
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