本研究では、新規抗結核薬の開発を目標として、結核菌の細胞内寄生に関与していると推定されるタンパク質の機能と構造を明らかにし、得られた知見に基づいて、その機能を阻害する新規阻害剤をデザインするとともに、結核菌に対する抗菌活性を測定することを目的としている。本年度はまず、これまでに見出した、抗酸菌由来ヌクレオチド加リン酸分解酵素の活性を特異的に阻害する15種類の化合物を用いて、結核菌に対する抗菌活性の測定を行った。抗菌活性は、微量液体希釈法によるMIC値測定で評価した。その結果、15種類の化合物には著しい抗菌活性は認められなかったが、そのうち1種類の化合物が高濃度(256μg/mL)存在している条件下では結核菌の生育能がコントロールと比較して若干低下していることが示唆された。そこで、この化合物の構造情報を基にして、側鎖などを置換した4種類の化合物を入手した。抗菌活性について結核菌H37Rv株を用いて測定した結果、そのうちの1種類の化合物において、顕著な抗菌活性が認められた。MIC値について6回の測定を行った結果、中央値と最頻値ともに本化合物のMIC値は32μg/mLであった。さらに、結核菌H37Ra株に対する抗菌活性も測定したところ、本化合物のMIC値は4~8μg/mLであった。このMIC値は、既存の抗結核薬であるカナマイシンやストレプトマイシンに匹敵する値であると考えられた。また、結核菌由来ヌクレオチド加リン酸分解酵素(MtAPA)に対する本化合物の50%阻害濃度は3μMであったことから、本化合物はMtAPAの機能を阻害することによって結核菌に対して抗菌活性を示すことが示唆された。この作用機序は、既存の抗結核薬の作用機序とは全く異なることから、本研究で得られた成果は薬剤耐性結核菌にも有効な新規抗結核薬の開発につながることが期待される。
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