研究課題/領域番号 |
24780096
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
阿部 勝正 長岡技術科学大学, 工学部, 助教 (40509551)
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キーワード | 有機リン化合物 / 加水分解酵素 / シグナルペプチド / ペリプラズム / ピログルタミン酸 / 難分解性環境汚染物質 |
研究概要 |
Sphingomonas sp TDK1から単離に成功した難分解性含塩素化合物・リン酸トリス(1,3-ジクロロプロピル)(TDCPP)を分解するハロアルキルリン酸加水分解酵素は,これまでに分解報告のない有機リン化合物を基質とするだけでなく,そのペリプラズムへの輸送経路,N末端アミノ酸修飾など,他のバクテリア酵素とは異なる,非常に特異な性質をいくつも有していることが明らかになった.本研究では,これらの中でも特に新規性の高い,ペリプラズム輸送経路とN末端タンパク質修飾の酵素学的・生理的意義を解明することを目的としている.平成25年度は以下の研究業績をあげた. 次世代シークエンサーを用いたTDK1株のドラフトゲノム解析で,タンパク質のペリプラズム輸送で重要な役割を果たすtatC,secA,secY遺伝子,および,N末端修飾に関わると考えられる推定ピログルタミン酸酸化酵素(グルタミニルシクラーゼ)など,本研究課題で目的としていた全ての遺伝子を同定した. 次に,N末端修飾が酵素活性に与える影響を解析するため,簡便に精製可能であり,さらに,N末端のピログルタミン酸化が起こらない,大腸菌におけるHisタグ融合酵素発現系を構築し,本発現酵素が活性体として発現することを確認した. また,前年度の局在解析ではpETシステムによる当該酵素の過剰発現がその局在に影響を与えた可能性が考えられたことから,発現量を調節可能なアラビノース誘導型pBadシステムを用いた当該酵素の大腸菌発現系を構築し,局在解析を試みた.その結果,当該酵素活性はサイトゾルにのみ認められ,当該酵素はこれまでに報告のない挙動を示す事が明らかになった.本結果が伸長シグナルペプチドの機能に由来するかについて今後解析を行なう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TDK1株のドラフトゲノム解析により本研究課題で目的としていた全ての遺伝子を同定し,N末端タンパク質修飾の酵素学的意義の解明やペリプラズム輸送経路解析のための新規大腸菌発現系の構築にも成功している.また,発現量を調節可能なアラビノース誘導型pBadシステムでの大腸菌発現系を用いた局在解析では,これまでに報告のない酵素の局在性が確認されるなど,新しい知見も得られている. これらの結果は本研究課題の研究成果,及び,今後の研究遂行及びに大きく寄与するものであり,本研究は概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度は本研究課題全体に関与する遺伝子の同定,ペリプラズム移行経路の解析,および,N末端ピログルタミン酸化意義の解明のための大腸菌発現系の構築を行なってきた.今後については,前年度の研究をさらに発展させると共にN末端修飾が酵素活性に及ぼす影響と伸長シグナルペプチドがペリプラズムへの輸送へ及ぼす影響などについて解析を行なう.具体的な内容を以下に示す. 1. N末端ピログルタミン酸化の意義の解明 前年度に構築したHisタグ融合酵素発現大腸菌から,ニッケルキレートカラム等の各種カラムクロマトグラフィーシステムを用いてN末端未修飾酵素を均一にまで精製する.得られた精製標品の諸性質(カイネティクス,最適温度,pH,阻害剤,補因子,基質特異性など)をガスクロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィー質量分析計を利用した活性測定法で解析し,各種諸性質を野生型(N末端修飾)酵素と詳細に比較することで,本修飾が酵素活性に及ぼす影響を解明する.また,Sphingomonas sp. TDK1株の推定ピログルタミン酸酸化酵素(グルタミニルシクラーゼ)遺伝子破壊株の構築を試み,本酵素欠損がTDK1株のTDCPP代謝に与える影響も解析する. 2. ペリプラズム移行経路の解明 前年度構築した,アラビノース誘導型pBadシステムを用いた当該酵素の大腸菌発現系を元に,伸長シグナルペプチド領域欠損型とシグナルペプチド領域欠損型の当該酵素発現系を構築する.得られた発現系を使用して,以前に確立した条件での細胞分画および局在解析を行ない,推定シグナルペプチドの各領域がペリプラズム輸送へ及ぼす影響を解析する.さらに,Tat経路とSec経路で重要な役割を果たすtatC,secA,secY各種遺伝子破壊株を用いた局在解析を行なうことで本酵素のペリプラズム輸送経路の解明を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金が生じた理由としては,会計上の理由で3月末までの支払いが済んでいない分,及び,前年度の遺伝子・分析試薬の購入が当初予測より少なかったためである. 本年度に関してはN末端ピログルタミン酸化酵素など多種にわたる遺伝子破壊株の構築や数種のシグナルペプチド欠損酵素発現系の構築など,多くの分子生物学実験を行なう予定である.また,酵素活性測定でガスクロマトグラフィーも多く使用する予定であることから,その消耗品費が本年度不足する可能性も考えられる. 以上の事から,当該助成金については本年度請求した助成金と合わせて主に分析関係試薬や遺伝子関連試薬などの消耗品費として使用する予定である.
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