研究課題
若手研究(B)
近年、放線菌や高度好熱菌において従来知られていなかったメナキノン(ビタミンK2)生合成経路が新たに発見された。この新規メナキノン生合成経路を持つ微生物の中には、病原菌であるHelicobacter pyloriやCampylobacter jejuni等が含まれ、ヒトや乳酸菌等の共生微生物はこの経路を持たない。そのため、新規メナキノン生合成経路にある酵素群は、病原菌に特異的な阻害剤開発のターゲットになりうると考えられる。そこで、本研究では新規メナキノン生合成経路に関わる酵素の反応機構解明を目的として、まず、今年度は、高度好熱菌由来 MqnD-生成物・生成物類似体複合体およびピロリ菌由来プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)の立体構造解析を行った。MqnD-生成物・生成物類似体共結晶構造では、生成物・生成物類似体が大小2つのドメイン間のポケット部位に結合し、アミノ酸側鎖や主鎖と生成物のカルボキシ基酸素原子との間で水素結合を形成していた。また、生成物と疎水結合を形成しているアミノ酸残基も見出された。また、他種間でも高度に保存されており、活性中心の触媒残基や反応中間体の安定化に寄与している可能性のある残基も見出された。さらに、この結果を受けて、MqnD-基質共結晶作成に向けて、MqnD活性部位変異体の作製と結晶化検討を行った。一方、ピロリ菌由来PNPの結晶構造は、α/β構造を持つ分子が6量体を形成し、高さ60オングストローム、直径100オングストロームの円盤型の全体構造をとっていた。各モノマーは10本のβシートの周りに7本のαへリックスが位置する構造を持ち、交互に上下反転した向きで6量体に会合していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
今年度、高度好熱菌由来 MqnD-生成物・生成物類似体複合体だけでなく、ピロリ菌由来プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)の立体構造解析にも成功しており、おおむね順調に研究は進展している。また、MqnD-基質共結晶作成に向けて、MqnD活性部位変異体の作製と結晶化検討も既に行っており、さらに、これまで入手困難だったMqnDの基質を最近入手することができており、次年度以降の研究発展に向けた準備状況も良好である。
まず、MqnDの酵素反応機構の詳細を解明するために、高度好熱菌MqnDと基質との共結晶を作成し、X線結晶構造解析により立体構造を解明する。基質については、市販されていないので、これまで入手が非常に困難であったが、最近、共同研究を通して入手することができた。また、基質が反応しないで結合した状態を保つため、MqnDの予想活性残基変異体も既に作成し、結晶化条件も検討済みである。このMqnD変異体結晶に基質をソーキングすることにより基質複合体結晶を作成して立体構造解析を行い、基質認識機構や活性残基の立体配置を明らかとする。さらに、基質結合部位や活性部位残基の各種変異体を作成し、酵素反応速度解析等の生化学実験を行い、MqnDの酵素反応機構の詳細を解明する。また一方、ピロリ菌由来PNPと基質や生成物との複合体の立体構造解析も行い、本酵素の反応機構の詳細を解明する。さらに、MqnDの反応機構解析の成果を抗菌剤開発に応用するため、ピロリ菌由来MqnDの結晶化及びX線結晶構造解析を行う。さらに、得られたピロリ菌MqnDの立体構造を利用して、in silico阻害剤結合スクリーニングを行い、structure-based drug discoveryやfragment-based drug discoveryの手法等も利用し、抗菌剤リード化合物探索への応用を目指していく。
前年度は研究費の効率的な使用に努め、コストパフォーマンスの高い研究成果を得ることができた。そこで、次年度以降に集中的に研究費を投入して、比較的高価な機器や試薬なども使用しながら、研究進展をさらに加速するような研究費の使用を計画している。これにより、限られた研究費を研究期間全体に渡って効率的に使用することになり、費用対効果を最大限に高めた研究成果を得ることができると考えられる。
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J. Phys. Chem. B
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http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/news/2012/12/50284.html