研究課題/領域番号 |
24780097
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
新井 亮一 信州大学, 繊維学部, 助教 (50344023)
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キーワード | 酵素 / 反応機構 / X線結晶構造解析 / メナキノン / 生合成 / 高度好熱菌 / 構造生物学 / MqnD |
研究概要 |
近年、放線菌や高度好熱菌、ピロリ菌等において従来知られていなかったメナキノン(ビタミンK2)生合成経路が新たに発見された。ヒト等は別の生合成経路を持つため、新規メナキノン生合成経路にある酵素群は、ピロリ菌等の病原菌に特異的な阻害剤開発の分子標的になりうると考えられる。そこで、本年度は新規メナキノン生合成経路の酵素の一つであるMqnDの反応機構解明を目的として、His145をAlaに変異させたMqnD(H145A)の変異体とMqnDの基質cyclic de-hypoxanthinyl futalosine (cDHFL)との複合体結晶を作製し、X線結晶構造解析により立体構造解析を行った。 T.thermophilus HB8由来のMqnD(H145A)を大腸菌BL21Star(DE3)株を用いて大量発現し、熱処理による粗精製や各種カラムクロマトグラフィーにより、6 mg/mlの精製タンパク質溶液500μlを得た。これを用いてハンギングドロップ法により結晶化し、結晶ドロップ中に基質cDHFLを加えることで複合体結晶を作製した。KEK放射光科学研究施設(Photon Factory)においてX線回折測定を行い、分子置換法により立体構造解析を行ったところ、MqnD(H145A)変異体と基質cDHFLの複合体について、1.5Å分解能で立体構造解析に成功した。cDHFLは、ドメイン間のポケット部位に環状構造を保って結合していた。この構造より、フラノース五員環が閉じた状態のまま基質が酵素に結合し、初期反応が開始されることが示唆された。また、H145A変異体で基質cDHFLの反応段階が全く進行していないことや基質の結合状態から、His145が触媒塩基として働いて、プロトンの引き抜きから反応が開始される脱離反応機構である可能性が推察され、MqnD酵素反応機構に関する新たな重要知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で第一目標としていた高度好熱菌由来MqnD-基質複合体の立体構造解析に成功し、MqnDの酵素反応機構に関する新たな重要知見を得ることができたことより、おおむね順調に研究は進展していると考えられる。また、ピロリ菌由来MqnDの立体構造解析を目指して、既にピロリ菌MqnDの大量発現系も構築済みであり、今後のさらなる研究発展に向けた進捗状況も良好である。
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今後の研究の推進方策 |
MqnDの反応機構解明の成果を抗菌剤開発に応用するため、ピロリ菌由来MqnDの結晶化及びX線結晶構造解析を行う。既にピロリ菌MqnDの遺伝子クローニング及び大腸菌による大量発現系は構築済みであり、今後、精製、結晶化スクリーニング、結晶化条件の最適化を行う。構造解析可能な結晶が得られ次第、PF構造生物ビームラインにおいてX線回折実験を行い、立体構造を解析する。さらに、得られたピロリ菌MqnDの立体構造を利用して、in silico及びin vitro阻害剤結合スクリーニングを行い、structure-based drug discoveryやfragment-based drug discoveryの手法等も利用して、抗菌剤リード化合物開発への応用を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の効率的な使用に徹して、費用対効果の高い研究成果を得ることに努力してきたため、次年度使用額が生じた。 これまで研究費をできる限り効率よく使用しながら研究を進めてきたが、最終年度にこの次年度使用額を投入して、比較的高価な機器や試薬なども適宜利用しながら、研究進展をさらに加速し飛躍的な成果を得るように計画している。さらに、最終年度なので、特に、研究成果取りまとめや研究発表の費用、英語論文校閲費用および論文掲載料などの支払いも重点的に計画している。これにより、限られた研究費を研究期間全体に渡って、柔軟に対応しながら効率的に使用することとなり、基金助成金制度の利点を活用して、費用対効果を最大限に高めた成果が得られると考えられる。
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