研究実績の概要 |
近年、放線菌や高度好熱菌、ピロリ菌等において従来知られていなかったメナキノン(ビタミンK2)生合成経路が新たに発見された。ヒトはそれとは別の生合成経路を持つため、新規メナキノン生合成経路にある酵素群は、ピロリ菌等の病原菌に特異的な阻害剤開発の良い分子標的になりうると考えられている。そこで、本研究では新規メナキノン生合成経路に関わる酵素の反応機構解明を目的としてX線結晶構造解析による立体構造解析を実施した。 まず、高度好熱菌由来メナキノン生合成系酵素MqnDと生成物や生成物類似体との複合体結晶、次に、MqnD(H145A)変異体と基質cDHFLとの複合体結晶のX線結晶構造解析を行った。その結果、最高1.5Å分解能での立体構造解析に成功し、生成物や基質等は、ドメイン間の活性ポケット部位に結合していた。特に詳細な活性部位の構造解析より、基質のフラノース五員環が閉じた状態のままで酵素に結合して、初期反応が開始されることが示唆された。また、MqnD(H145A)変異体では、基質cDHFLの反応段階の進行が見られないことや基質の結合認識状況から、His145が触媒塩基として働いて、プロトンの引き抜きから反応が開始される脱離反応機構の可能性が推察された。さらに、MqnD結晶中で基質と一定時間反応させた後に液体窒素で凍結してX線結晶構造解析を行ったところ、結晶中でも酵素反応が確かに進行しており、生成物1,4-dihydroxy-6-naphthoateの電子密度が確認されるとともに、反応の途中過程を示唆する新たな電子密度も発見し、MqnD酵素反応機構に関する新奇な知見が得られた。 また他にも、ピロリ菌由来プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)の立体構造解析に成功し、反応機構の理解につながる成果が得られた。 以上の結果、新規メナキノン生合成経路に関わる酵素の反応機構解明につながる十分な成果が得られたことより、現在、これらの成果をとりまとめて複数の学術論文を執筆中である。
|