研究課題/領域番号 |
24780098
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 智和 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90584970)
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キーワード | D-セリン / D-アスパラギン酸 / D-アミノ酸 |
研究概要 |
本年度は、我々が以前、出芽酵母より見出したD-セリン特異的分解酵素、D-セリンデヒドラターゼ、を用いたD-セリンのハイスループット定量キットの上市を完了した。本法は96ウェルを用いたD-セリンデヒドラターゼと乳酸脱水素酵素の共役アッセイ系であり、ヒト尿中などに含まれるD-セリンを迅速、簡便に定量可能である。 また、真核微生物におけるD-セリンの新規機能解明を目的として、細胞性粘菌に存在するD-セリン代謝関連酵素すなわち、セリンラセマーゼ、D-セリンデヒドラターゼの欠損株を作製し、さらに同欠損株の相補株も所得した。一方で、これら遺伝子破壊株をベースとした多重破壊株創出を目的とし、両欠損株における薬剤耐性カセットの除去も行った。これら欠損株を用いて相補株の生育や発達過程へ影響を検証した。さらにリアルタイムPCRによる各D-セリン代謝酵素の発現プロファイル解析を行った。これら解析の結果、D-セリンの制御が細胞性粘菌の発達過程―特にSlug形成過程前後―において極めて重要な意義を有する可能性が示された。 これらと並行して、哺乳類のD-アスパラギン酸合成酵素と示唆されるアスパラギン酸ラセマーゼ(DR)の酵素学的解析や同遺伝子のノックアウトマウスを用いた、脳、海馬、精巣などのD-アスパラギン酸量を含めたアミノ酸分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は本年度(1)血中D-セリンの定量を可能とする高感度D-セリン定量酵素定量法のキット化、(2)細胞性粘菌D-セリン代謝関連酵素のノックアウト株の作製とそのフェノタイプ解析、酵素学的解析を予定していた。 (1)については尿中D-セリンの定量が可能となる簡便、迅速なD-セリン酵素定量キットの上市を果たしたものの、血中阻害因子の簡便な除去法の確立が難航した。 (2)については、セリンラセマーゼ、D-セリンデヒドラターゼの欠損株の作製が完了し、また、来年度予定していた、これら株の多重破壊株作製を目指した薬剤耐性除去株も構築した。さらに、各欠損株の相補株についても作製が完了し、フェノタイプの解析を進行している。 これに加え、来年度に予定していた、推定アスパラギン酸ラセマーゼ(DR)欠損株の各臓器のD-アスパラギン酸を含めたアミノ酸分析にも着手している。 以上から、(1)の研究計画については若干遅延しているものの、それ以外においては概ね順調、もしくはそれ以上の進展で研究が進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方法として、前項(1)、血中D-セリンの定量を可能とする高感度D-セリン定量酵素定量法のキット化については、今後引き続き検討を続ける。 それ以外の項目については、研究実施計画に沿った研究遂行が可能である。 また、現在までに我々が得たデータから、哺乳類アスパラギン酸ラセマーゼについては、過去に示唆された酵素(DR)以外のD-アスパラギン酸合成酵素が存在する可能性が提起されている。この知見は非常に興味深く、より詳細なDRノックアウトの影響を解析するとともに、D-アスパラギン酸生合成の全容解明を目指していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進捗状況と旅費の使用額が予算と比べ少ないことによる。 次年度に国際学会(Cofactor Conference 04 (ICC-04))への参加を予定しており、最終的には申請通りの使用額となる見込みである。
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