研究課題/領域番号 |
24780099
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
磯野 直人 三重大学, 生物資源学研究科, 助教 (70378321)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | β-グルカン / シゾフィラン / スエヒロタケ |
研究概要 |
スエヒロタケH4-8株を入手し、培養条件を検討した。2% グルコースを含む最少培地を用いて30℃で菌糸体を振とう培養したところ、培養3-4日目から培地上清にシゾフィランが蓄積した。本培養条件においてシゾフィラン合成系酵素(主鎖合成酵素と分岐酵素)が生産されていると考えられた。 培養3日目の菌糸体から全RNAを調製した。ゲノム情報の分析から、シゾフィランの主鎖合成にはβ-1,3-グルカンシンターゼ(BGS)が関与していると考えられた。BGSには二種類のアイソザイムBGS1とBGS2が存在した。RT-PCR解析を行ったところ、上記の培養条件では両遺伝子が発現していることが明らかとなった。そこで、各アイソザイムの機能解析を行うために、BGS1とBGS2の触媒ドメインのコード領域cDNAをプラスミドpCold IIに連結してpNI-203とpNI-204を構築した。これらを用いていくつかの大腸菌を形質転換し、タンパク質の発現を行った。大半のケースでは、BGS1とBGS2の触媒ドメインタンパク質は封入体内で観察されたが、シャペロンプラスミドを含むBL21(DE3)/pGro7/pNI-203ではBGS1触媒ドメインと予想されるタンパク質を可溶性画分に得ることができた。 β-グルカン分岐酵素の探索ではβ-1,3-グルカンホスホリラーゼ(BGP)による直鎖β-1,3-グルカンの合成系を利用する予定である。既知の微細藻類BGPは至適pH 5、至適温度30℃であり、グルカン合成条件に制限があることが問題であった。本年度、細菌のBGPを初めて発見し、組換え酵素を得た。細菌BGPは至適pH 7、至適温度50℃であり、β-グルカン分岐酵素の探索により適した性質の酵素であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スエヒロタケ菌糸体の全RNAの調製方法の確立に時間を要した。当初、いくつかのプロトコールを用いてRNeasy Plant Mini Kit(キアゲン)を用いたRNA調製を試みたが、いずれも非常に低い収量であった。シゾフィランの生産条件で菌糸体を培養した場合、培養上清だけではなく細胞自体にも粘性多糖が多く含まれており、これがRNAの抽出効率を低下させていると予想された。検討を行った結果、Sepasol RNA I Super G(ナカライテスク)とCTABを併用した方法で、高純度のRNAを効率よく調製できるようになり、問題は解決された。 BGSは高分子量(約200 kDa)の膜貫通型タンパク質である。全長の発現は困難であると思われたため、触媒ドメイン領域(約60 kDa)のみの発現を試みた。従来の大腸菌発現系に比べ、生産効率と可溶性発現が向上すると言われているコールドショック発現系を用いて発現を行ったが、大半のケースでは組換えBGS触媒ドメインタンパク質は不溶性画分に観察された。そこで、シャペロンとの共発現により、BGS触媒ドメインの可溶性画分への回収効率の向上を試みた。その結果、BL21(DE3)/pGro7/pNI-203ではBGS1触媒ドメインと予想されるタンパク質を可溶性画分に得ることができた。しかし、これらの検討に多くの時間を要したため、BGS1の精製と活性確認には至らなかった。また、BGS2についてはまだ可溶性発現が成功していないため、検討が必要である。 一方、β-グルカン分岐酵素の探索により適した細菌BGPを発見できたことは大きな成果であった。平成25年度以降に実施するβ-グルカン分岐酵素の活性評価に有用な酵素であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きスエヒロタケのBGS触媒ドメインの発現を試みる。ProS2可溶化タグとの融合タンパク質の利用や、インクルージョンボディーからの可溶化についても検討を行う。組換えタンパク質を精製した後、酵素特性(pHや温度の影響、基質特異性、反応産物)の解析を行い、アイソザイム間の性質の違いを明らかにする。また、ホモロジー解析や部位特異的変異導入法を用いて酵素触媒残基の推定を行う。 分岐酵素は膜画分、細胞質画分、培養上清(調製法はすでに確立済)のいずれかに存在することが予想される。BGPを用いた直鎖β-1,3-グルカンの合成系に各画分のタンパク質と適当な基質(糖ヌクレオチド等)を加えて、分岐型β-1,3-グルカンの合成を試みる。生成沈殿(直鎖β-1,3-グルカン)の有無、アニリンブルー染色、ゲル濾過HPLCによる分子量分布解析などから分岐型β-1,3-グルカンの合成を判断し、最終的にはNMRで構造を確認する。必要に応じて、各種カラムクロマトグラフィーを用いて分岐酵素の精製を行う。続いて、ペプチドマスフィンガープリンティング (PMF) 法あるいはペプチドシークエンスタグ (PST) 法により、分岐酵素をコードする遺伝子を同定する。一次構造の特徴を明らかにし、他生物における類似酵素の存在を予測する。さらに、組換え分岐酵素の作成を行い、分岐酵素の特性解析(pHや温度の影響、基質特異性)を行う。また、組換え分岐酵素とBGPを組合せた反応を行い、分岐型β-1,3-グルカンの試験管内合成および反応産物の構造解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究では使用しなかった研究費が約35万円生じた。この理由として (1) 当初の予想していたよりも培養条件の確立とBGS cDNAの取得に費用がかからなかった。(2) BGS触媒ドメインの発現に時間を要し、活性測定に至らなかった。ことが挙げられる。 平成25年度はタンパク質定量、糖質定量、酵素活性の測定を迅速に行うためにマイクロプレートリーダー(バイオラッド・ラボラトリーズ・iMark、約60万円)を購入する。本物品は研究計画調書(H23.11.7)で購入を予定していたが、交付申請書(H24.4.5)の主要な物品としては記載していなかった。しかし、平成24年度の研究費に余剰が出たことと、平成25年度以降の研究の進行を加速させる必要があることから、本物品の購入を行う。また、研究遂行のために、スエヒロタケのタンパク質を大量に調製する必要があると判断された場合は、機械式のホモジナイザー(アズワン・ウルトラタラックスT18)を購入する予定である。そのほか、薬品・プラスチック器具・ガラス器具などの消耗品を購入する。また、学内の機器使用料として使用するほか、研究成果を学会で発表するための出張旅費として使用する。
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