研究課題/領域番号 |
24780099
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
磯野 直人 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (70378321)
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キーワード | β-グルカン / シゾフィラン / スエヒロタケ / ラミナリオリゴ糖 |
研究概要 |
スエヒロタケのシゾフィランの主鎖合成に関与すると思われるβ-1,3-グルカンシンターゼ(BGS)の機能解析を行うために、BGS触媒ドメインの大腸菌による発現と精製を試みた。シャペロンとの共発現や可溶化タグとの融合タンパク質の発現を行ったところ、微量の目的タンパク質が可溶性画分に得られた。精製した組換えタンパク質のBGS活性を測定している。 スエヒロタケ菌糸体から細胞膜画分を調製する方法を確立した。膜画分とUDPグルコースを混合した反応で得られた産物はアニリンブルーで染色された。したがって、膜画分にはBGSなどのβ-グルカン合成関連酵素が含まれており、試験管内でβ-グルカンが合成されたことが予測された。β-1,3-グルカンホスホリラーゼを用いたβ-1,3-グルカン合成系に、この膜画分を加えて反応を行ったところ、水不溶性の直鎖β-1,3-グルカンの合成が抑制された。このため、膜画分にはβ-グルカンの可溶化に関する成分が含まれていることが予想された。この成分はβ-グルカン分岐酵素(BGB)の可能性がある。 β-1,3-グルカンを切断し、生じた糖鎖を別の分子に転移するGH17ファミリーの酵素が細菌や子嚢菌にあることが最近、報告された。BGBも同様の反応を触媒している可能性がある。スエヒロタケのゲノム中に、少なくとも2種類のGH17ファミリーの酵素がコードされていることを見出した。このうち、一つの酵素をコードするcDNAをクローニングし、組換え酵素発現用のプラスミドを作製した。 また、ラミナリオリゴ糖の合成を行うラミナリデキストリンホスホリラーゼ(LDP)を好冷性細菌から発見し、組換え酵素を得た。BGSやBGBの活性測定に使用するために、LDPを用いてラミナリオリゴ糖を調製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
BGSは高分子量の膜貫通型タンパク質であり、全長の発現が困難であると思われたため、触媒ドメイン(約60 kDa)のみの発現を試みている。しかし、BGS触媒ドメインの大腸菌による発現と精製が当初予想していたよりも難しいことが分かってきた。シャペロンとの共発現では微量のタンパク質が可溶性画分に得られるが、BGS触媒ドメインはシャペロンと強固な複合体を形成したため、高純度に精製できなかった。また、可溶化タグProS2とBGS触媒ドメインの融合タンパク質も大半は封入体内で観察された。このため、十分な量のBGS触媒ドメイン精製タンパク質の調製に至っていない。また、組換えタンパク質の活性を測定しているが、有意な活性はまだ検出されていない。活性測定に使用可能なタンパク質量が限られていることや、測定条件が適切でない可能性があるため、さらなる検討が必要である。 シゾフィラン蓄積条件(炭素源グルコース)で培養したスエヒロタケから調製した細胞膜画分には、膜タンパク質以外に多量の多糖(β-1,3-グルカン)が多く含まれていた。そのため、この膜画分を用いて多糖の合成反応を行うと、膜画分に元から含まれている多糖と反応で得られた多糖の区別ができず、結果の解釈が困難となることが分かった。この問題の解決には若干時間を要したが、グリセロールを炭素源とした培養を行うと改善されることが判明した。 ラミナリオリゴ糖の合成に有用なLDPの発見は予定外の成果であった。ラミナリオリゴ糖はBGSやBGBの活性測定に必要な基質であるが、市販品は非常に高価である(500円/mg 以上)。LDPを用いて二糖から七糖までのラミナリオリゴ糖を大量に合成し、各オリゴ糖を活性炭カラムで精製した。これらのオリゴ糖は関連酵素の活性測定に役立つと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
BGS触媒ドメインの機能解析を行うために、大腸菌封入体の可溶化とメタノール資化酵母Pichia pastorisを用いた発現について検討する。とくに後者では翻訳後修飾が起こるために、可溶性の活性型酵素が得られることを期待している。また、細胞内発現と分泌発現の両方を試す予定である。組換えタンパク質を精製した後、酵素特性(pHや温度の影響、基質特異性、反応産物)の解析を行い、アイソザイム間の性質の違いを明らかにする。また、ホモロジー解析や部位特異的変異導入法を用いて酵素触媒残基の推定を 行う。活性測定ではアイソトープラベルされたUDPグルコースを用いて、アクセプター基質(ラミナリオリゴ糖やβ-1,3-グルカン)に取り込まれたグルコースを定量する。 BGBの探索では、膜画分に含まれるβ-グルカンの可溶化促進成分の同定を試みる。クロマトグラフィーでタンパク質を精製したのち、質量分析によりBGB遺伝子の同定を行いたい。その後、大腸菌または酵母を用いて組換え酵素を作製する。また、BGBの可能性があるGH17ファミリー酵素の発現と精製も平行して行う。精製した組換え酵素の一般特性(pHや温度の影響、基質特異性)の解析を行うとともに、BGPとBGBの同時反応で得られる産物の構造解析(NMR分析・メチル化分析・分子量分布分析)を行う。また、糖転移反応を触媒する既知のGH17ファミリー酵素(細菌・子嚢菌)とBGPを組み合わせた反応による分岐型β-グルカンの合成についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究では使用しなかった研究費が約60万円生じた。当初の予定より研究の進行が若干遅れていることが主要な理由である。また、スエヒロタケのタンパク質の大量調製をするために必要となるかもしれない機械式ホモジナイザーの購入についても、研究の進行状態を考慮して保留している。 機械式ホモジナイザー以外の機器の購入は特に予定していない。薬品・菌株・プラスチック器具・ガラス器具などの消耗品を購入する。また、DNAの合成費用や学内機器使用料として使用するほか、研究成果を学会で発表するための出張旅費として使用する。
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