研究課題/領域番号 |
24780101
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木村 泰久 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10415143)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 高密度リポタンパク質 / 脂質恒常性 / 高脂血症 / ABCタンパク質 / ABCG1 / HDL |
研究概要 |
研究初年度に当たる平成24年度においてはコレステロール恒常性に関与するヒトABCG1を中心に研究を遂行し基質特異性を明らかにするなど重要な成果を得た。 ABCタンパク質ファミリーは生物界で最も大きな遺伝子ファミリーの一つで、その多くがATP結合/加水分解のエネルギーを利用した能動的な輸送体として機能する。ABCG1は脂質恒常性、特に善玉コレステロールと称される高密度リポタンパク質(HDL)形成において重要な役割を果たすと考えられていたが生化学的な研究はなされておらず、基質の選択性など機能の根幹は不明であった。まずヒト培養細胞発現系を用いてヒトABCG1を大量に発現・精製する実験系の構築を達成した。次いで精製標品を用いて生化学的解析を行った。精製ヒトABCG1はATP加水分解活性を有し、その値は報告されている他の輸送体型ABCタンパク質に匹敵するものであったことからABCG1が活性な輸送体として機能する事が確認できた。次いで輸送基質の検討を行ったところ、ヒトABCG1はコレステロール、スフィンゴミエリン、フォスファチジルコリンを輸送基質として認識する事が明らかとなった。スフィンゴミエリンとフォスファチジルコリンは親水基としてフォスフォコリン基を共通して持つことからABCG1はリン脂質の親水性部分を認識している事が示唆された。またスフィンゴミエリンをフォスファチジルコリンよりも強く認識するという特徴から脂肪酸の結合部位にある水酸基が認識を補助する事も明らかとなった。 本研究はヒトABCG1が活性な輸送体であり、輸送基質の選択性を世界で初めて明らかにしたものであり、今後の高脂血症研究において重要な位置を占める。本成果を研究初年度に得られた事は当初の予定をうわまわる進捗状況である。今後においては同じく脂質輸送に関連すると考えられるヒトABCタンパク質の生化学的解析を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究初年度ではヒトABCG1の精製および生化学的解析系を確立し、重要な知見を得た。本研究の成果は初年度終盤に論文としてJournal of Lipid Research誌に報告した(Hirayama et al. J Lipid Res. 2013 Feb;54(2):496-502.)。研究開始当初はABCG1の実験系の整備、データーの取得に1年以上はかかると予想されていたが、研究初年度にまたまった結果を得る事が出来、論文として発表できたのは予想をはるかに上回る進捗状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
研究2年度目においては、初年度に確立したヒトABCG1の生化学的解析手法をHDL形成に関与する他のABCタンパク質に適用し、HDL形成におけるABCタンパク質の役割解明を行う。また、ABCG1の基質特異性を更に検討し、より詳細な基質認識、輸送機構を明らかにする。その他、生理的に重要でありながら基質が特定されていないABCタンパク質について、精製標品を用いた解析を実施し輸送気質および生理機能を明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究費は実験に必要な消耗品、成果発表のための学会参加旅費、論文の英文校正等の経費として用いる。本研究ではタンパク質の大量発現系としてヒト培養細胞発現系を用いるため、高額の培地が継続的に必要である。また精製においては高価な界面活性剤やカラムを使用することから経費の7割程度を消耗品費として使用予定である。また旅費として20万円、英文校正費用として10万円を予定している
|