活性中心にセリンを有するペプチダーゼ(AP)は、加水分解と拮抗してアミノリシスを触媒し、その反応の簡便性からペプチド合成への利用展開が高く見込まれる。本研究では、アミノリシスを示すAPに焦点を当て、水溶液中で単純なアミン類から様々なペプチド類縁体の合成を可能とする酵素分子のデザインと、新たな“合成酵素学”の観点に基づいた簡易かつ広範なケミカルライブラリー構築の実現を目的とた。 我々は性質の異なる数種のAP(family S9、S12、P1)を所有し、既知の生理活性ジペプチド合成を実現してきた。簡易かつ広範なケミカルライブラリー構築の実現には、効率的かつ幅広い基質に対するアミノリシス触媒能が必要である。初年度は、各酵素のアシル受容体の網羅、family P1 APの活性中心の変異によるアシル受容体特異性の改変、family S12 APの結晶化を報告した。2年目では、基質特異性が限定されるfamily S9 APに重点を当てた。本酵素は、少量の過酸化水素に数時間曝すことで分子表面が部分的に酸化され、基質特異性の変化が生じる。そこで酸化処理及び未処理酵素のトリプシン分解物をMSで解析し、酸化領域を特定したところ、活性部位とは異なる領域が同定された。その領域には酸化を受けやすいMetが存在し、そのMetに限定して変異解析を行った結果、酸化による特異性変化と同等の効果が、SerやAlaに置換することで得られた。また、電荷をもつ残基に置換すると活性が増強し、芳香環を持つ残基に置換すると活性が低下した。更には近隣残基をAlaスキャンしてMetの酸化と2次的に関わる残基を選抜し、その結果を基にメカニズムを考察した。同定されたMetは、APが基質を取り込む際の通り道に位置し、Metの酸化が周囲残基との相互作用を変化させ、基質の通り道の幅や静電的環境に大きく影響を及ぼすことが考えられた。
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