研究課題
【研究目的】多くの生物は,種を保存するため,異性を正確に認識する情報手段として「フェロモン」を用いる。フェロモンが受容体によって正確に認識される仕組みを知ることは,生殖活動を理解し,生態系の乱れを制御する方法の開発につながる。申請者は,哺乳類において唯一,リガンド~受容体~性行動という一連のシグナルの流れが明らかな,ペプチド性フェロモン ESP1 の立体構造決定に世界で初めて成功した。本研究は,ESP1 が,受容体である V2Rp5 に正確に認識される仕組みを,立体構造に基づいて理解することを目的とする。本研究の成果は,実験用マウスの作製の促進や野生マウスの繁殖抑制に有効な,アゴニスト・アンタゴニストの開発に有力な構造情報を提供する。【研究実績】① ESP1―V2Rp5 間の結合強度を定量化する実験系の確立大腸菌の発現系を用いて ESP1 の調製を行った。コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いて V2Rp5 の細胞外領域の調製を行った。アミンカップリングにて樹脂に固定化した ESP1 に対する V2Rp5 の結合量を、ウェスタンブロット法で定量化することに成功した。② 立体構造に基づくESP1―V2Rp5 結合面の同定申請者が構造決定した ESP1 の立体構造、および、既知の代謝型グルタミン酸受容体の立体構造に基づくV2Rp5 の構造モデルを用いて、ESP1―V2Rp5 複合体モデルを構築した。モデル構造に基づいて作製した ESP1 変異体の神経活性化能を調べることで、ESP1 の V2Rp5 結合面を明らかにした。現在、V2Rp5 変異体の調製を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
24年度の研究実施計画通りに、研究を進めることができた。加えて、神経活性化能が減弱した ESP1 変異体の一部について、本年度に構築した ESP1―V2Rp5 間の結合強度を定量化する実験系を用いて、V2Rp5 結合能が減弱していることを明らかにした。
① ESP1―V2Rp5 間の結合強度を定量化する実験系の確立: NMR等の、より定量性の高い実験系の確立を目指す。② 立体構造に基づくESP1―V2Rp5 結合面の同定: 構築した ESP1―V2Rp5 複合体モデルに基づき、V2Rp5 変異体の調製を進める。調製した ESP1 変異体、および、V2Rp5 変異体について、結合能を評価し、ESP1―V2Rp5 結合面を明らかにする。③ ESP1―V2Rp5複合体モデルの構築と検証: 明らかにした ESP1―V2Rp5 結合面の情報をもとに、複合体モデルを最適化し、細胞および個体レベルにおいて変異体の活性を測定することで,複合体モデルの検証を行う。以上の結果に基づいて、ESP1 が正確に受容体に認識される要因を明らかにする。
今年度の研究費の使用が予定より少なかった理由として、”① ESP1―V2Rp5 間の結合強度を定量化する実験系の確立”において、NMRを用いた検討という観点では十分に進めることはできず、比較的高額な消耗品の使用が抑えられたことが、主に挙げられる。今年度分に予定していた研究費は、次年度、本検討へ、主に使用する予定である。1. 設備備品費・本申請で購入の予定はない。研究遂行に必要な施設・設備は,研究代表者と研究協力者の所属する熊本大学と東京大学内に備わっている。2. 消耗品費 ・タンパク質調製用試薬: 大腸菌培養の培地,コムギ胚芽無細胞タンパク質合成の試薬,安定同位体標識のための試薬などを計上する。・生化学試薬: 界面活性剤,電気泳動試薬などを計上する。・生化学器具: プラスチックチューブ,表面プラズモン共鳴用のチップなどを計上する。3. 国内旅費 ・国内学会にて,成果発表を行う。4. 謝金 ・英語論文の校閲費を計上する。5. その他 ・論文投稿費を計上する。各費目において,90%を超えるものはない。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
J. Biol. Chem.
巻: 288 ページ: 16064-16072
10.1074/jbc.M112.436782
Biomol. NMR Assign.
巻: 7 ページ: in press