研究概要 |
FAD依存型D-グルコース脱水素酵素(GDH)と同酸化酵素(GOX)は、いずれもD-グルコースからD-グルコノ-1, 5-ラクトンへの酸化反応を触媒するが、FADの再酸化機構が異なる。血糖値のモニタに広く利用されているGOXであるが、酸素による再酸化を受けるためバイオセンサへの応用に不利である。一方、酸素への応答性が低いGDHは、バイオセンサへの応用が期待されるが、グルコースだけでなくキシロースにも弱い活性を示す。そこでタンパク質工学的手法で新規機能を有する酵素の創製を目指すために、構造未知であったGDHの立体構造を決定し、基質認識機構を解明する研究を行った。 本研究において、酸化型GDH、還元型GDH、p-ベンゾキノンによる再酸化型GDH、還元型GDH-基質複合体、酸化型GDH-阻害剤複合体、および還元型GDH-阻害剤複合体の構造を決定した。複合体構造では、基質グルコース、あるいは阻害剤グルカールが活性部位に観測された。 基質複合体におけるグルコースの配向では、反応は進まない。一方、阻害剤複合体では、グルカールの1位炭素がFAD5位窒素を覆うように存在し、これにグルコースを重ね合わせると反応に適した配向となることから、これら阻害剤複合体は、反応中間体を模した構造だと考えられる。グルカールのOH基は、Tyr54, Glu414, Arg502, Asn504の側鎖によって認識され、複合体中のグルコースのOH基もまた同様であった。しかしながら、両者はGlu414の配向に差異がみられた。また阻害剤6位ヒドロキシル基は、FADの4位カルボニル基から3.47 Åの距離にあるが、他に水素結合はみつからなかった。以上から、GDHは5位官能基を持たないキシロースをGlu414とArg502のフレキシブルなコンホメーション変化で、活性部位へ容易に結合させることができると推定した。
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