研究課題
アルツハイマー病の原因物質である42残基のアミロイドβ(Aβ42) の神経細胞毒性発現には、35番目のメチオニン残基 (Met-35) の硫黄原子のラジカル化が深く関わっている。本研究では、33S固体NMRを用いてAβ42凝集体におけるMet-35の硫黄原子の状態を精密に解析し、ラジカル化機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、Aβ42凝集体の33S固体NMR法の確立を目指した。33Sの天然存在比は0.76%しかないので、Aβ42のMet-35の硫黄原子を33Sで標識することにより、33S-NMRの感度向上を図る。本研究代表者は昨年度に、33S単体からL-メチオニンを合成することに成功している。本年度は、33S標識メチオニンを用いてAβ42の固相ペプチド合成を行った。ポリエチレングリコールをスペーサ-としたポリスチレン樹脂を固相担体とし、HATUを活性化剤として用いたFmoc法を連続フロー型合成機で行うことにより、Aβ42を高収率で合成した。得られたAβ42の粗ペプチドをHPLCにより高純度に精製し、リン酸緩衝液中、37℃でインキュベーションすることにより、線維状の凝集体であるフィブリルを調製した。合成した33S標識メチオニンを用いて33S固体NMRスペクトルを測定した。33S-NMRの感度を向上させるため、1Hの大きい磁化を33Sに移す偏極移動法を用いた。その結果、感度が非常に悪いながらも、メチオニンの33S固体NMRシグナルを検出することに初めて成功した。
3: やや遅れている
測定サンプル、即ち33S標識メチオニンおよびAβ42の合成は完了しているが、33S固体NMRの測定法の確立が難航している。33Sはスピン量子数3/2の四極子核であるため、四極子相互作用により線幅が広くなることが知られている。メチオニンの硫黄原子の四極子相互作用の強度を計算した結果、5MHz程度と予想より遥かに強く、ピークの線幅が極めて広くなることが示唆された。以上の理由から、33S-NMRシグナルを検出することには成功したものの、Aβ42凝集体に適用可能なほどの感度と分解能を達成できなかった。
33S固体NMRの感度と分解能が非常に悪いため、解析可能なほどのシグナルを得るのに時間がかかってしまい、十分な測定条件検討が行えていない。そこで、硫黄原子の電子密度の偏りが小さく、四極子相互作用が比較的弱いメチオニンスルホンをモデル化合物として用い、ラジオ波の照射パワーや繰り返し時間などの測定条件の最適化を行う。同時に、NMRプローブのコイルを極低温に冷却することにより、絶対感度の向上を目指す。確立した測定条件および測定法を用いて、33S標識メチオニン、続いて33S標識Aβ42の33S固体NMR測定を行う。Aβ42凝集体の高分解能かつ高感度な33S固体NMRスペクトルが得られるようになったら、Aβ42のラジカル化機構の研究を行う。Cu2+やZn2+などの金属イオンがAβ42のラジカル化を促進することが報告されているので、これらの金属イオン存在下で調製した33S標識Aβ42の硫黄原子の状態を33S固体NMRにより解析する。一方で、四極子の影響が弱くなる溶液での33S-NMR測定を計画している。化学合成したメチオニンもしくはメチオニンスルホンを重水に溶解して33S-NMRの測定を行う。将来的には、タンパク質中のメチオニンだけでなく、システイン及びシスチンの硫黄原子の状態の解析を視野に入れているので、33S標識したシステイン及びシスチンの有機合成を行う。
33S標識したメチオニンスルホン、システイン、シスチンの有機合成は、東北大学薬学研究科において本研究代表者が行う。33S固体NMRの測定は、共同研究者の竹腰清乃理教授(京都大学理学研究科)が所有する固体高分解能NMR装置 (磁場: 14テスラ) とクライオMASプローブを用い、測定・解析は共同で行う。研究経費は、33S標識に用いる33S硫黄単体、ペプチド合成試薬、HPLCカラム、固体NMR用サンプル管の購入に充てる。また、33S固体NMRの共同研究先である京都大学での研究打ち合わせや国内学会での成果発表、関連学会での情報収集のための旅費を計上している。
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http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~hannou/index.html