植物から動物ステロイドが検出されるが、植物におけるその生合成経路と生理機能は明らかにされていない。本研究では、(1)変異体による逆遺伝学的研究手法を用いて植物における動物ステロイドの生合成経路(生合成酵素)の解明を行った。さらに、(2)動物ステロイドの植物における生理機能、特に性分化(雌雄分化)における役割の解明を試みた。(1)の研究として、動物のプレグネノロンからプロゲステロンへの合成酵素遺伝子3β-HSDに類似したシロイヌナズナの遺伝子にT-DNAが挿入された変異体について、内生動物ステロイドの分析を行った。その結果、正常種と比べて、表現型と内生動物ステロイドに大きな違いは認められなかった。この候補遺伝子に類似した遺伝子がシロイヌナズナのゲノムに複数存在するので、それらの機能が重複している可能性が考えられた。そこで、別の動物ステロイド生合成酵素の系統樹から推測した候補遺伝子についてもT-DNA挿入変異体を取得して解析したところ、その変異体は発芽できない異常な種子をつけることがわかった。また、シロイヌナズナの花、茎や葉などの器官別の内生動物ステロイド分析を行ったところ、花の内生量が一番高かった。これらのことから、シロイヌナズナにおいて動物ステロイドは生殖生長において重要な役割があることが示唆された。加えて、(2)の研究として、雄花と雌花が別々の個体につく雌雄異株植物の内生動物ステロイドの分析を進めた。アスパラガスを分析材料として、雄株と雌株に分けるためにPCRを用いて雌雄鑑定を行ったのち、雌雄差のない段階での茎葉部の内生動物ステロイドの分析を行った。その結果、雄株と比べて雌株の方が、内生動物ステロイド含量が高い傾向が見られた。このことから、アスパラガスの雌雄分化に動物ステロイドが関与している可能性が示唆された。
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