研究課題
1)SSAを標的タンパク質とした多価性糖鎖配位体の合成及び機能設計SSAが認識する糖鎖を化学-酵素合成法で構築し、それらをモジュール化結合法で骨格分子に組み込むことで構造が高度に規制された多価性糖鎖配位体を合成することを目的とした。具体的には、前駆体となるEGTAの四価カルボキシ基に対してアグリコン部に2-アミノエトキシ基を有するスペーサー結合型SAα2,6LacNAc及びSAα2,6LacNAcβ1,3LacNAc配糖体をそれぞれ導入した3糖及び5糖シアロ型四価糖鎖配位体([SALN]4/[SALNLN]4)を合成した。また、これとは別にSAα2,6LacNAcβ1,3LacNAc配糖体のLacNAc一回繰り返し分に相当する長さをアルキルスペーサーで置換したスペーサー延長型SAα2,6LN四価配位体([SALNsp]4)も合成した。また、本多価性糖鎖配位体の架橋複合体形成能の普遍性を明らかにする目的で、N-アセチルラクトサミン構造に結合親和性を有するECA、SAα2,6Gal構造に結合親和性を有するトリ型インフルエンザウイルスなどを標的とした種々の多価性糖鎖配位体も作製した。2)糖鎖-タンパク質間相互作用解析を指標とした多価性糖鎖配位体の統合的評価作製した多価性糖鎖配位体のSSAに対する結合特性解析は等温滴定カロリメトリーにより評価した。その結果、5糖構造を有する[SALNLN]4が最も強い結合解離定数(Kd=34nM)を示した。また興味深いことに、[SALN]4と[SALNLN]4及び[SALNsp]4とでは糖鎖リガンド一分子に対するSSAの結合数に違いがみられ、[SALN]4はリガンド:SSAが1:2で、[SALNLN]4及び[SALNsp]4は1:3で結合することが示された。その粒径はおよそ800nmと巨大なリガンド-SSA架橋複合体であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度の研究計画および方法に掲げた、SSAレクチンを標的タンパク質とした多価性糖鎖配位体の合成および機能設計については、本年度SSAレクチンに対して結合親和性を有するα2,6シアリルガラクトース構造を持つ多価性糖鎖配位体の酵素-化学合成に成功した。さらに、骨格部やスペーサー部、糖鎖部をそれぞれ改変することにより種々の多価性糖鎖配位体を作製した。また、α2,6シアリルガラクトース構造だけではなく、ECAレクチンに対して結合親和性を有するN-アセチルラクトサミン構造や、トリ型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに対して結合親和性を有するα2,3シアリルガラクトース構造、さらには糖鎖-糖鎖相互作用に関与するLeX構造など、α2,6シアリルガラクトース構造以外の糖鎖構造を骨格分子に提示した多価性糖鎖配位体の合成にも成功した。また、研究計画および方法の二番目に掲げた、糖鎖-タンパク質間相互作用解析を指標とした多価性糖鎖配位体の統合的評価に関しては、SSAレクチンおよびECAレクチンをモデルタンパク質として設定し、本多価性糖鎖配位体とのクラスター効果とキレート効果に伴う相互作用解析を行った。具体的にはクラスター効果は等温滴定カロリーメトリー(ITC)や赤血球凝集阻害試験を指標とし、キレート効果はITCや動的光散乱法(DLS)を指標とした。その結果、標的タンパク質に対する多価性糖鎖配位体の結合能と架橋複合体形成能には構造活性相関があることが判明し、この情報をもとに現在さらなる機能設計を進めている。以上のように全体的には、平成24年度の計画に掲げた内容は十分達成できている。
平成25年度の研究計画に従い、平成24年度に作製した多価性糖鎖配位体をインフルエンザウイルスおよびインフルエンザウイルスヘマグルチニンとの相互作用解析に供する。SSAレクチンやECAレクチンのような直径が数nm程の糖結合性タンパク質に対してだけでなく、直径が100 nm程のインフルエンザウイルスに対しても架橋複合体形成能を有する多価性糖鎖配位体を設計できるかが今後の課題となる。さらに、本結果をもとに多価性糖鎖配位体を利用したウイルス検出システムの作製を試みる。
酵素合成試薬・複合糖質基材・合成試薬・ガラス器具・蛍光ラベル化試薬・レクチン・ウイルス・各種実験器具等の消耗品費や学会等の国内旅費、論文校閲料および論文投稿料などとして研究費を使用する。
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