研究課題/領域番号 |
24780113
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
太田 広人 熊本大学, 自然科学研究科, 助教 (60450334)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 昆虫 / 摂食行動 / 生体アミン / 受容体 / 農薬 / カイコ / GPCR / 制御剤 |
研究概要 |
鱗翅目害虫モデルのカイコを用いて、摂食行動を支配する未同定の生体アミン受容体の遺伝子クローニングを行った。ゲノムやcDNAのデータベースをもとにプライマーを設計し、神経組織からPCRでクローニングを行った。その結果、オクトパミン受容体1種類、ドーパミン受容体1種類(BmDopR4)、セロトニン受容体2種類、オーファンアミン受容体2種類の計6種類の遺伝子(部分配列のみも一部含む)を増幅させることができ、ベクターへのクローニングを順次進めている。 すでに同定されているオクトパミン受容体BmOAR1の詳細な薬理解析を進めた結果、チアゾリン骨格の化合物がアゴニストとして作用すること、さらに他の昆虫オクトパミン受容体とは薬理特性が大きく異なることも分かり、鱗翅目特異的な摂食制御剤の開発が可能であることが分かった。 カイコの摂食行動とドーパミン受容体の関係性を調査した。D2-likeドーパミン受容体の一種BmDopR3のアゴニストであるブロモクリプチン(Bro)を5齢幼虫に投与すると、摂食量のみならず、排糞量や餌探索行動までもが活性化された。Broと構造が似た化合物ペルゴリドでも摂食亢進が認められたが、排糞量や餌探索行動の亢進は見られなかった。このことから、ペルゴリドはBroとは異なる受容体に作用していると考えられた。その候補として、上記BmDopR4が予想され、現在この遺伝子の全長クローニングを行っている。 カイコには食性異常カイコと呼ばれる品種が存在する。そのような品種と正常品種の摂食行動を比較しながら、Broの摂食亢進メカニズムを調査した。その結果、Broによる摂食亢進は、BmDopR3が介在する複数の神経経路によって制御され、その一つは摂食刺激物質のショ糖に応答する神経経路であることが予想された。この結果から、BmDopR3は摂食制御剤の新しい標的として注目できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、未同定の生体アミン受容体遺伝子のクローニングと内因性リガンド及び受容体機能の同定までを計画していた。クローニングについては、概ね予定通り進めることができた。他の昆虫種同様、カイコにも20種類程度の生体アミン受容体遺伝子が存在すると当初予想していたが、中国のグループによる詳細なアノテーション解析(Fan et al., 2010)を踏まえると、カイコの生体アミン受容体は14種類ほどにとどまることが分かった。今回、6種類の未同定受容体遺伝子のPCR増幅に成功し、それらすべての全長クローニングが完了すれば、これまでに同定が完了している7種類の受容体(BmOAR1-2, BmTAR1-2, BmDopR1-3)と合わせると13種類クローニングできたことになる。計算上では、残り1種類程度となり、カイコの生体アミン受容体遺伝子はほぼ明らかになったと言える。次年度は、残った未同定遺伝子のクローニングに加え、部分配列のみの解読にとどまっている遺伝子の全長をクローニングする。 リガンド及び受容体機能の同定に関しては、配列からリガンドと機能が予測できる受容体遺伝子(セロトニン受容体など)については個々の機能解析を省略し、次の網羅的薬理解析のためのレポーターアッセイ系の構築まで進めることができた。しかし、オーファンアミン受容体2種類とクローニングが完了していない遺伝子については予定より遅れているため、次年度にリガンドと受容体機能の同定を行う。 当初の計画以外に、他の受容体に先立ってオクトパミン受容体BmOAR1の網羅的薬理解析をレポーターアッセイによって推進できたこと、さらに、食性異常カイコを用いてドーパミン受容体BmDopR3を介した摂食亢進メカニズムの一端を解明できたことは大きな進展である。
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今後の研究の推進方策 |
残った未同定遺伝子と部分配列にとどまっている受容体遺伝子の全長クローニングを次年度内に完了させ、その内因性リガンドと受容体機能を明らかにする。オーファンアミン受容体については、複数の機能解析(cAMPアッセイ、エクオリンCa応答解析、バインディングアッセイなど)を用いて、リガンドと機能の同定を行う。内因性リガンドが配列から予測または実験で特定できた受容体については、レポーターアッセイを駆使して、市販品の生体アミン関連化合物や化合物ライブラリーの他、合成した類縁化合物などの中から、特異的なアゴニスト及びアンタゴニストをスクリーニングする。すでにある程度レポーターアッセイによってリガンド探索が進んでいるBmOAR1についても引き続き調査を進める。それ以外の同定済み受容体についても同様のレポーターアッセイ系の構築とリガンド探索を進める。これらスクリーニングによって有望な化合物が次年度内に選抜できた場合、3年目に計画している行動実験を前倒しし、摂食量・排糞量・行動リズムなどに対する影響を調べる。スクリーニングが難航する場合も予想されるので、既知のアゴニスト・アンタゴニストを用いた行動解析を進め、摂食行動を制御するアミン受容体を調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は、未同定遺伝子のクローニングと内因性リガンド及び受容体機能の同定までを計画していたが、すべてを完了させることができず、使用を予定していた遺伝子クローニングのための酵素やキット、さらには受容体の機能解析に必要な試薬や化合物を購入できなかった。その分の予算が残額(268,702円)として残り、繰り越した。この繰り越し分を利用して、当該実験を次年度に行う。並行して、レポーターアッセイによる各受容体特異的なアゴニスト及びアンタゴニストの網羅的スクリーニングと摂食行動実験も行っていく予定なので、受容体発現細胞の培養、レポーターアッセイキットの購入、化合物の購入及び合成、カイコの飼育などの費用に、当該年度請求額(直接経費1,300,000円)を充てる。
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