研究課題/領域番号 |
24780114
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
野下 浩二 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (40423008)
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キーワード | ニトリル / 生合成 / アミノ酸代謝 / 昆虫食害 / ジャスモン酸 / 誘導抵抗反応 |
研究概要 |
昨年度に引き続き,昆虫食害や植物ホルモンであるジャスモン酸メチルにより誘導されるオオイタドリのニトリル生合成経路の解明に取り組んだ.微生物やいくつかの植物で,ニトリル化合物は対応するアミノ酸からアルドキシムを経て生合成されることが知られている.オオイタドリから放出されるフェニルアセトニトリルの場合,L-フェニルアラニンから生合成されることはすでに明らかにしていたが,フェニルアセトアルドキシムが全く検出されず,アルドキシムが生合成中間体であるか不明であった.一方で,フェニルアセトニトリルが生合成されるためには,フェニルアラニンが脱炭酸する必要があるが,ジャスモン酸メチルで処理したオオイタドリにフェニルアラニンが脱炭酸して生成したと考えられるフェネチルアミンが蓄積し,このアミンが生合成中間体であると示唆された.そこで,今年度は,アミンやアルドキシムがニトリル生合成の中間体であるかを調べた.オオイタドリでは,ニトリルの原料となるフェニルアラニンもまた昆虫食害やジャスモン酸メチルで誘導される.オオイタドリをフェニルアラニン生合成阻害剤であるグリホサートであらかじめ処理すると,ジャスモン酸メチル処理してもニトリル生成は認められない.これにフェニルアラニンを添加するとニトリル生成が回復し,同様にアミンやアルドキシムといった生合成中間体と予想される化合物を添加したところ,いずれもニトリルへと代謝されることが明らかとなった.アルドキシムを経由するニトリル生合成経路はこれまで報告されている経路と類似であるが,アミンを経由した経路は新規な経路と考えられる.アミンとアルドキシムが同一の生合成経路上に存在するかは現段階では不明であり,現在,その解析に取り組んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オオイタドリのニトリル生合成において,ニトリルの原料となるフェニルアラニンの生合成もまた昆虫食害やジャスモン酸メチルで誘導されることを見出したことにより,原料供給を人為的に止めた状態で,中間体候補化合物の代謝実験の系を構築できた.結果として,オオイタドリにおいて不明であったニトリル生合成の中間体を明らかにでき,今後は生合成経路上の個々の反応の詳細を調べることが可能な状態となった.すなわち,フェニルアラニンからフェネチルアミンへの脱炭酸反応と,フェニルアセトアルドキシムからニトリルへの脱水反応である.前者の反応に関しては,ピリドキサールリン酸依存的な反応を触媒する生合成遺伝子の候補を見出しており,後者の反応に関しては,P450 の関与を示唆する結果を得ている.以上のことから,研究は順調に進んでいると判断し,平成 26 年度は,このふたつの反応を触媒する酵素の解明に絞り,研究を進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
オオイタドリにおいて,フェニルアラニンをフェネチルアミンへと代謝する候補遺伝子を見出しており,この遺伝子の全長の塩基配列決定をまず進める.この候補遺伝子は部分配列ながら,ピリドキサールリン酸依存的と考えられる.トマトなどで知られる芳香族アミノ酸脱炭酸酵素はピリドキサールリン酸を補酵素としており,オオイタドリから得た候補遺伝子も類似の反応を触媒すると予想できる.候補遺伝子の全長決定後は,その発現系の構築と機能解析を進めるとともに,並行して,オオイタドリを破砕して得た粗酵素液を用いて,フェニルアラニンからアミンへの代謝を再現できるか検討する予定である.一方,フェニルアルドキシムからフェニルアセトニトリルへの代謝に P450 の関与を示唆する結果を得ている.そこで,ジャスモン酸メチル処理したオオイタドリの膜タンパク質を網羅的に調べ,ニトリル生合成に関与する P450 の候補の探索を進める予定である.最終年度であることから,平成 25 年度の生合成中間体の解析結果と合わせて,論文として成果をまとめることを意識し,酵素反応に焦点を絞って研究を進めていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
予想よりも早くニトリル生合成候補遺伝子を見出したため,当初の予定よりも遺伝子配列の受託解析に係る費用が少なく済んだため. H25 年度に購入した液体クロマトグラフィーシステムなど,本研究課題を進めるうえで必要となる機器類は揃っている.H26 年度の研究費は,試薬類など研究推進に必要な消耗品費,成果発表に係る旅費および英文校正費に充てる予定である.また,H26 年度は,学内のプロテインシーケンサを利用してジャスモン酸メチル処理で誘導されるオオイタドリの膜タンパク質の構造解析を計画している.プロテインシーケンサは,本研究課題を申請した際には学内になく,当初は利用を想定していなかったが,タンパク質のアミノ酸配列解析には非常に有効な機器である.プロテインシーケンサ専用の試薬は,一般の試薬に比べるとやや高価であるが,次年度使用額をこれら試薬の購入に充てる予定である.
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