研究課題/領域番号 |
24780122
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
落合 秋人 新潟大学, 自然科学系, 助教 (40588266)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 歯周病菌 / イネタンパク質 / 抗菌タンパク質 |
研究概要 |
研究代表者は、イネ種子から歯周病菌Porphyromonas gingivalisの増殖を阻害する2種類のタンパク質成分OsHsp70NとAmyI-1を過去に見出している。本年度は、各タンパク質のヒト病原菌(真菌や細菌)に対する抗菌性スペクトルの解明とX線結晶構造解析について、以下の研究成果を得た。 【抗菌スペクトルの解明】OsHsp70Nは、4種類のP. gingivalis 菌株に対して 約0.1-0.5 μg/mlの濃度で増殖阻害を示した。一方、AmyI-1は同菌株に対して 4-40 ng/mlの低濃度で増殖阻害を示した。この結果は,これらタンパク質が歯周病菌P. gingivalisに対する増殖阻害剤として高い汎用性を有することを示している。 【組換えタンパク質の調製と結晶化】OsHsp70NのcDNAを発現ベクターpET15bに組み込み、発現宿主である大腸菌BL21(DE3)に導入して組換えタンパク質の大量発現系を構築した。同様に、組換えAmyI-1の大量発現系をベクターpET21bと宿主HMS174(DE3)を用いて構築した。それぞれ1 Lの組換え大腸菌培養液から、10.6 mgおよび0.83 mgの精製タンパク質を得た。この精製タンパク質を用いて、PEG6000もしくはPEG3350を含む条件で、X線結晶構造解析に適したそれぞれの単結晶を得た。 【X線結晶構造解析】X線回折実験は大型放射光施設(つくば市)を利用した。OsHsp70Nの立体構造を1.9 A分解能で決定した。OsHsp70Nは、5枚のβ-シートを形成する18本のβ-ストランドと19本のα-へリックスから構成されていた。また、OsHsp70Nと補酵素ADPとの結合様式を明らかにした。これら構造生物学的解析とそれに基づく部位特異的変異導入解析などの結果から、今後は増殖阻害メカニズムの解明へと発展させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した当該年度の研究計画は、(1) 同定したタンパク質の抗菌性スペクトルの解明、(2)-1 OsHsp70NおよびAmyI-1の大腸菌を用いた組換えタンパク質の調製と結晶化、(2)-2 OsHsp70NおよびAmyI-1のX線結晶構造解析である。(1)および(2)-1に関して、研究は計画通りに進展した。歯周病菌Porphyromonas gingivalisの増殖を阻害する2種類のタンパク質成分OsHsp70NとAmyI-1に関して、ヒト病原菌(真菌や細菌)に対する抗菌性スペクトルを明らかにした。また、大腸菌を用いた組換えタンパク質の大量発現系を構築し、X線結晶構造解析に適したこれらタンパク質の単結晶を得ることができた。一方(2)-2に関して、OsHsp70Nの立体構造を1.9 A分解能で決定した。交付申請書に記載の通り、各タンパク質の構造決定の完了は6月を見込んでいたため、当初の計画以上の進展と言える。OsHsp70Nに関する研究成果の一部は、「イネ由来成分を含有する感染防御用組成物」として特許出願を完了した。また、AmyI-1のもつ歯周病菌の増殖阻害に関する研究を、国際専門誌Journal of periodontal researchに発表した。OsHsp70Nの立体構造に関する研究も、現在論文執筆中である。以上、研究計画のとおり概ね順調に進展しており、その一部は当初の計画以上の進展をみせている。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書に記載の通り、研究計画は順調に進展している。そこで、まず研究計画(2)-2に従って、残る抗菌性のタンパク質AmyI-1の立体構造を決定する。AmyI-1の結晶は既に調製済みであるため、主に放射光実験施設(放射光科学研究施設Photon Factory)を利用して、X線回折データの収集から構造決定を次年度の6月頃までに完了する予定である。 次に、研究計画(2)-3に従って、OsHsp70NおよびAmyI-1の増殖阻害活性に関わる構造要因の同定を進める。決定したOsHsp70NおよびAmyI-1の立体構造情報に基づいて、タンパク質の分子表面に位置してかつ細胞表層と相互作用しやすい塩基性領域を中心に、 増殖阻害活性の発現に重要と推測される領域を抽出する。当該部位の合成ペプチドや部位特異的変異を導入した変異体の増殖阻害活性の評価を行い、活性発現に関わる領域を特定する。また、推定される触媒残基Asp-178, Glu-203, およびAsp-289に対して部位特異的変異を導入し、これらの残基と増殖阻害活性との関係も検証する。 最後に研究計画(3) 増殖阻害タンパク質の標的分子の同定を行う。2種類のタンパク質(OsHsp70N, AmyI-1)もしくは研究計画(2)-3で同定した増殖阻害活性に関与する両タンパク質の部分領域を化学合成して磁性ビーズに固定化し、歯周病菌Porphyromonas gingivalisの細胞表層抽出液からアフィニティー精製することにより標的分子を探索する。質量分析により、磁性ビーズに結合した標的分子を網羅的に同定する。これらの成果を踏まえて、抗菌タンパク質の作用メカニズムの解明へと繋げる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額として801,107円が生じた。本件は、【現在までの達成度】に記述の通り、抗菌性タンパク質の構造解析に係る一部研究が想定以上に進展したため、結晶化などに要する物品費が減少したことによる。但し、課題申請書に記載の一部設備備品費(インキュベーター MIR-154, 390,000円)が未執行であるほか、放射光実験施設(放射光科学研究施設Photon Factory,つくば市)の次年度の利用回数が増加することを踏まえると、執行状況も予定通りである。本年度は、これら以外に、研究計画に沿ってタンパク質の結晶化試薬、結晶化器具、MALDI TOF/MS用器具・試薬、標的分子精製用担体・試薬に必要な研究費を使用する。
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