研究課題
ロタウイルスは乳幼児下痢症の主因である。乳幼児の免疫系は未熟なことからワクチンを補填する予防法の開発も重視されている。これまでの研究から、牛乳に含まれるロタウイルス感染阻害成分としてラクトフォリン(lactophroin, LP)を見いだした。その阻害様式は、LPとウイルスの直接結合によるものではなく、LPが宿主細胞に対して何らかの相互作用をすることによって生じる感染阻害であることが示唆されている。LPの示すユニークなロタウイルス複製阻害機構の解明をめざして、本研究ではLPがウイルス複製後期に与える影響について検討した。定法に従い牛乳からプロテオースペプトンを調製後、尿素存在下でのヘパリンアフィニティークロマトグラフィーに供してLPを精製した。35S-Met/Cysを用いてヒトロタウイルス感染細胞内で合成されるタンパク質を経時的に追跡した。LP(50 μM)を添加し1時間作用させた細胞を十分に洗浄した後にウイルス感染させると、LPの事前添加が無い場合と比較して、ウイルスタンパク質の合成が著しく抑制することを見いだした。さらに、ウイルス感染前のLP添加は、毒素領域をコードするウイルスゲノムNSP4の発現量も大幅に減少させた。LP添加1時間後(すなわちウイルス感染直前)のLPの細胞局在性について免疫染色法を用いて検討したところ、LPは核周辺に凝集したかたちで観察された。本研究により、細胞に添加されたLPは1時間の処理の間に細胞内に取り込まれることが明らかとなった。またウイルス複製過程に対しては翻訳およびアセンブリの抑制、一部のウイルスゲノムの転写抑制が認められた。今後は、LPの細胞内局在に関する詳細な解析、ウイルス複製前期(ウイルスの接着、侵入、脱殻、および全ウイルスゲノムの転写)に与えるLPの影響を検討する必要がある。
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Journal of Dairy Science
巻: 97 ページ: 2653-2661
10.3168/jds.2013-7792