本申請では、食品として摂取されたミルク中の抗菌タンパク質ラクトフェリン(LF)が腸上皮細胞由来レクチン、インテレクチン(ITLN)と乳児消化管内で結合し、菌体や腸上皮細胞に作用することで協調的に細菌生着の促進と抑制のバランスをとりつつ乳児の初期腸内細菌叢形成を制御するというモデルを提唱し、その検証を目的として以下の研究を遂行した。 1)これまでに作成したITLN特異抗体を、抗原カラムを用いてアフィニティー精製した。この抗体を用いて培養細胞での内在性および過剰発現ITLNの発現解析を行ったところ、ITLNは発現細胞でのみエンドソームに一部局在していた。一方、培養細胞へ添加したLFはエンドサイトーシスされ、細胞種により細胞内の輸送先が異なることが明らかとなった。この際、細胞内でのLFとITLNの相互作用をそれぞれの特異抗体を用いて生化学的手法および組織化学的染色法により解析したところ、ITLN依存的LF取り込みを示唆する結果が得られた。 2)腸内細菌の中でも乳児腸管で主要を占めるビフィズス菌のin vitro増殖速度解析系を確立し、4種類のビフィズス菌株の生育に対するLFとITLNの影響について解析を試みた。予備的な実験により、LFとITLNは異なるターゲットの菌株に対して増殖を促進することを示唆する結果が得られた。 3)腸管上皮組織は、主に吸収上皮細胞と分泌上皮組織により構成されている。代表的なヒト腸上皮細胞株の一つであるHT29細胞は、これらの性質を持つヘテロな細胞集団である。腸内細菌との細胞種特異的相互作用を解析するため、HT29細胞を薬剤選択によりサブクローン化し、その性質を解析した。その結果、親株であるHT29細胞と異なるムチン発現パターンを示すHT29クローン株が得られた。
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