研究課題/領域番号 |
24780127
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水重 貴文 京都大学, 学際融合教育研究推進センター・生理化学研究ユニット, 助教 (70571008)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ジペプチド / チロシルロイシン / 抗うつ作用 / 抗不安作用 / 精神的ストレス / 海馬 / セロトニン / 神経新生 |
研究概要 |
我が国の精神疾患患者数は年々増加しておりこれを改善する機能性素材の開発が期待されている。これまで当研究室では、ジペプチドTyr-Leu (YL)が医薬品に匹敵する強力な抗不安作用を有することを見出した。本研究では強制水泳試験や尾懸垂試験などマウス行動試験を用いてYLが抗うつ作用を示すことを初めて見出した。その抗うつ作用は既存の医薬品に匹敵する強力で、また経口投与でも有効であった。さらに、その構造―活性相関を検討した結果、Phe-Leu (FL)やTrp-Leu (WL)もYLと同様の抗うつ作用を示し、芳香族アミノ酸―ロイシン配列がその作用に重要であることが判明した。レトロ体(LY、LF、LW)、チロシン―他の分岐鎖アミノ酸(YV、YI)、構成アミノ酸(Y、L)は作用を示さなかった。なお、抗不安活性の構造―活性相関も検討し、芳香族アミノ酸―ロイシン配列が抗不安作用にも重要であった。 serotonin、dopamine、GABAなどの神経伝達物質が情動調節に重要であることが明らかになっている。YLの抗うつ機構をこれらの受容体アンタゴニストを用いて検討した結果、serotonin 5-HT1A、dopamine D1、GABAAの各受容体アンタゴニストでYLの抗うつ作用が消失した。YLはこれらの受容体に親和性を示さないことから、これらの神経伝達物質の分泌促進を介して抗うつ作用を示すことが示唆された。 Fosは様々な細胞で種々の刺激に応答し発現するタンパク質であり、神経細胞での発現は神経活動と関連があるとされる。マウスにYLを投与し、各脳領域のFos陽性神経細胞数をカウントしたところ、海馬でYL投与によりFos陽性細胞数が有意に増加した。視床下部と扁桃体では変化しなかった。海馬における神経新生はうつ様行動との関連が報告されており、現在、YLが海馬神経新生に及ぼす影響を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、YLが抗うつ作用を示すことおよびその構造―活性相関について明らかにし、芳香族アミノ酸―ロイシンという構造が活性に重要であることを突き止めることができた。また、YLによって脳の海馬が活性化していることがわかった。また、YLのプルダウンアッセイにより受容体候補が複数得られており来年度さらに検討する。以上、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
YLによって脳海馬が活性化されることが明らかになり、YLが海馬で何らかの作用を誘導している可能性がある。そこで、平成25年度においては、まず、抗不安作用と抗うつ作用に関与するとされる海馬神経新生を誘導するかどうか調べる。また、YLの標的分子を探索するとともにそのシグナル伝達経路に対してYLがどのように作用するか明らかにする。さらに、YLがストレス応答に対して影響しているかどうか検討するため、脳視床下部のcorticotropin-releasing hormone (CRH)および血中コルチコステロン量を定量する。以上の検討によって、YLの精神的ストレス緩和作用のメカニズム解明が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度余剰分1483千円を平成25年度に使用する。したがって、平成25年度分1400千円と合わせて平成25年度は直接経費が2883千円である。使用計画を以下に示す。 生化学実験試薬650千円、生化学実験器具120千円、細胞培養試薬450千円、細胞培養器具100千円、行動実験器具150千円、実験動物800千円、印刷費20千円、国際学会旅費313千円、国内学会旅費150千円、論文投稿費用30千円、英文校閲100千円
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