研究課題/領域番号 |
24780132
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
中川 究也 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90433325)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 食品工学 / 凍結濃縮 / マイクロカプセル / ハイドロゲル |
研究概要 |
本研究は,ハイドロゲルナノ粒子に関するこれまでに得られている膨大な化学的知見を,産業生産に結びつけるためのエンジニアリング研究を実施するものであり,特に,「無菌担保できるシンプルなナノ粒子作製プロセス」そして「ハイドロゲルの物質放出能を制御するエンジニアリング手法」の開発を大きな目標として掲げている.本研究のアプローチは,凍結濃縮相内部においてハイドロゲル微粒子作製を実現させることで課題の解決を目指すものである.凍結により生じる氷晶は、溶質成分や分散質を排斥し、凍結濃縮相と呼ばれる高濃度空間を形成する。この凍結濃縮相内部における濃度上昇を利用し、ゲル化剤濃度の上昇を誘起させれば、凍結濃縮相内部でゲル形成が実現できると考えられ,凍結プロセスの制御によって、様々なコアシェル型ハイドロゲル微粒子を作り分ける技術の開発を目指した.平成24年度は,当初の実施計画に盛り込んでいた「①カゼイン凝集ナノ粒子を凍結濃縮相内で作製する研究(自己凝集系の利用)」と「②ゼラチン-アカシアガム系を利用した油滴内包型コアセルベートナノ粒子を凍結濃縮相内で作製する研究(複合コアセルベーションの利用)」の2課題をパラレルに実施した.多くの成果は特に②の研究から得られており,凍結の速度と初期溶液のpHを適切に選択することで,微粒子内への物質取り込み量を変化させ,その内包させた物質のハイドロゲル皮膜を通じた物質移動速度を変化させられることが分かった.カゼイン凝集ナノ粒子に関する①の研究については,SPring-8における小角X線散乱試験の実施が実現したため,凍結過程における微粒子形成と考えられる散乱強度変化を捉えることに成功しているが,その解析を現在進めている段階であり,今後も引き続き再現実験が必要な見込みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に沿って着実に成果を出しつつある.交付申請書記載の通り,「①カゼイン凝集ナノ粒子を凍結濃縮相内で作製する研究」と「②ゼラチン-アカシアガム系を利用した油滴内包型コアセルベートナノ粒子を凍結濃縮相内で作製する研究」の2課題をパラレルに実施し,検討した項目もほぼそれに沿った形で実施した.ただし,実験成果を得る過程において判明した事実を元に,若干の軌道修正を図った.まず,カゼイン凝集ナノ粒子を使用した研究に際し,”O/Wエマルションをカゼインによって安定化させ、油滴表面における凝集を利用してコアシェル型のナノ粒子作製も試みる”予定としていたが,かなり複雑な系を対象とすることと加え,引き続き実施する予定の小角X線散乱による高次構造分析を難しくすることが予想されたため,カゼイン凝集ナノ粒子に疎水性相互佐用によって食品機能成分を内包させるという方向性に改めた.また,食品機能成分や薬剤のモデル物質として様々な機能性物質を検討していたが,これを扱いの容易なベータカロテンに改め,本研究課題にとってより本質的な成果を出すことを優先した.SPring-8を用いた小角X線散乱によって凍結過程におけるカゼインの凝集を捉えることに成功したものの,これは当初の想定よりもかなり難易度の高い実験であった.当初,”粒子径と粒子特性(小角X線散乱による高次構造分析)が凍結条件に応じてどれだけ変化するかを調査し,タンパク質凝集ダイナミクスの数式モデルを提案”と計画していたが,これは今後の課題として残ることになろう.平成25年度も引き続き取り組む予定とするが,これは今後の大きな研究へと発展的に繋げるべきものと考慮している.ただし,少なくとも.凍結という操作を経ることによって微粒子の構造形成」に大きな変化をもたらし,特性を制御できることは確認できたため,おおむね順調に進展していると自己評価している.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画によれば,「①カゼイン凝集ナノ粒子を凍結濃縮相内で作製する研究」をH24年度中に終了し,「③多糖クライオゲルをコアシェル型ナノ粒子作製に適用する研究」へと移行する計画であった.①②の両者の研究からは興味深い成果が得られており,おおむね順調に進展しているものの,先に記載したように,当初の想定よりも難易度の高い課題を含んでいることが明らかになってきた.しかしこの課題に引き続き取り組むことは,本研究における凍結を利用したカプセル化技術のみならず,タンパク質凝集を工学的に取り扱う必要のある技術全般に極めて有用な知見を引き出すことができるとの予見がある.従って,①の課題について引き続き下記計画にもとづいて継続する.i) 小角X線散乱によってpH,温度,共存塩の影響を受けて凝集してゆく動的な過程の構造変化過程を追跡する.また,その散乱画像を分析することによって,どのような構造変化が生じた結果,カプセルとしての機能性が生じているかを考察する.ii) バルクで生じる構造変化と比較し,凍結を経るということが構造の変化過程にどのような影響を与えるのかを考察する.iii) 微粒子の特性を様々な観点から評価し(消化特性,ガス透過性など),カプセルとしての機能性と言う観点からも検討を加える.以上の検討に加え,実施可能な状況であれば③の検討も実施するが,特にこだわらない.所属機関がH25年度より変わったことも合わせ,研究環境が昨年と同じでないことも考えると,上記検討に注力することが現況においては望ましい.ただし,②は計画通り実施する.以上をH25年度の研究推進方策とする.
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次年度の研究費の使用計画 |
約18万円の次年度使用額が生じているが,これの一部は当初H25年度に予定していた消耗品使用額に加えて支出する予定である.特に,今年度の研究を進める上で大きな労力を要するデータ解析の必要性に直面することが分かったため,人件費として一定額を支出することも計画している.
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