研究実績の概要 |
レシチンオルガノゲル化剤はレシチンと極性物質(例:水、尿素など)の混合物で、オイルに加えると逆紐状ミセルを形成してオイルを増粘・ゲル化する。本研究課題は、当研究室で見出された新規なレシチンオルガノゲル化剤を用いて、植物油をゲル化することを目的としている。まず、中鎖飽和脂肪酸を有するトリアシルグリセロールのゲル化スクリーニングを行ったところ、極性物質にクエン酸または1,2,3-プロパントリカルボン酸を用いた場合に、オイルをゲル化できることがわかった。つぎに、植物油(大豆油、菜種油)のゲル化について検討を行った。その結果、いずれの植物油を用いた場合にも相分離が起こりゲル化しなかったが、サンプルを注意深く観察したところ、調製直後はオイルがゲル化していることがわかった。これは、大豆油や菜種油等の植物油中では、逆紐状ミセルからなる三次元ネットワーク構造を長期間維持できず、逆紐状ミセルの凝集に伴ってオイルが離油することを意味している。このゲルが壊れる原因として、植物油の酸化が疑われた。そこで、オイル成分としてオレイン酸エチル(一価不飽和脂肪酸)およびリノール酸エチル(多価不飽和脂肪酸)を用いて、ゲルの安定性について検討した。その結果、オレイン酸エチルを用いたゲルは3ヶ月間安定に保持されたのに対し、酸化されやすいリノール酸エチルを用いたゲルは粘度が経時的に低下することがわかった。このことから、リノール酸エチルの過酸化脂質(リノール酸エチルヒドロペルオキシド)が、逆紐状ミセルの形成を阻害している可能性が示唆された。また、植物油中に微量含まれる植物ステロール(β-シトステロール、カンペステロール等)も逆紐状ミセルの形成を阻害している可能性があるため、現在これらの影響についても検討を行っている。
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