研究課題
本研究は油脂加工品中の健康懸念物質であるモノクロロプロパンジオール類(2-MCPDと3-MCPD)とグリシドールの定量法を開発することを目的としている。このためにはそれぞれの純物質を標品として必要とするが、研究開始当初、2-MCPDは市販されておらず、その合成法も確立されていなかった。本研究ではエピクロロヒドリンを出発原料として1,3-ベンジルエーテル化、2-クロロ化、1,3-脱ベンジルエーテルの3ステップで10グラムスケールの2-MCPDを合成する手法を開発した。これまで油脂中の3-MCPD量はドイツ公定法(DGF standard methods C-VI 18(10))のassay Aによって、グリシドール量はassay Bによって定量することができるとされていたが、我々は公定法中の化合物変換をNMRにより直接観測することで3-MCPDとグリシドールから5%程度の2-MCPDが生成することを明らかとし、この定量法が2-MCPDの生成を無視しているという問題点を明らかとした。さらに油脂中には初めから微量ながら2-MCPDが存在することを明らかとし、さらにこの2-MCPDも公定法処理中に一部が3-MCPDに変換されることを明らかとした。ただし、これらの変換は実際の定量に影響を及ぼさない程度である。さらに、本研究では実際の油脂に既知量のグリシジル脂肪酸エステルを添加することにより、公定法処理で2-MCPDおよび3-MCPDに変換する量を定量した。その結果、油脂の脂肪酸種にかかわらず95%程度の3-MCPDと5%程度の2-MCPDに変換されることが明らかとなった。すなわちグリシジルエステルを多く含む油脂はMCPDを多量に生成するため誤定量の原因となりやすいことがわかった。
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