研究課題/領域番号 |
24780150
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山川 陽祐 京都大学, 学際融合教育研究推進センター極端気象適応社会教育ユニット, 助教 (20611601)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水理地質構造 / 斜面崩壊 / 山地流域 / 基岩地下水 / 比抵抗探査 / 土壌水分計付貫入計(CPMP) |
研究概要 |
花崗岩地質の流域(兵庫県六甲山系)および堆積岩地質の流域(滋賀県比良山系)において,各種の地質構造調査,水文調査を実施し,山体の水理地質構造の解明に向けた原位置データを取得した。流域面積1.4haの花崗岩流域では,土層井戸内の水位観測(14箇所),基岩ボーリング孔内の水位観測(8箇所),渓流水(3箇所)および地下水(土層と基岩)の水質分析を行った。採水試料の電気伝導度の高低に明瞭な空間分布が認められ,流域内において異なる涵養源をもつ地下水帯の存在が示唆された。土層井戸の降雨応答については,降雨に鋭敏に応答する箇所,恒常的あるいは準恒常的な地下水帯が認められる箇所という空間的な差異があった。基岩地下水位の降雨応答特性にも流域内で鋭敏さに差異が認められた。乾燥期と湿潤期では,地下水面形状(地下水面標高分布)が大きく異なり,時期(先行降雨量の差異)による地下水流動プロセスの変化が示唆された。これらの空間的に不均一な水理構造は地形および現場踏査から推定されたリニアメントに強く規制されたものであると考えられた。一方,堆積岩流域においては,斜面距離約500mの流れ盤斜面を対象として,地形解析,湧水(9箇所)の流出量計測を行った。地形解析の結果,重力による変形の結果形成されたとみられる直線状あるいは馬蹄形の段差地形が多数確認された。特に,直線状の段差は斜面末端部を通る活断層と付随する断層破砕体を含む構造弱線と推察された。実際,湧水点にはしばしば断層粘土が確認された。対象斜面では標高の異なる基岩湧水が多数存在することから,断層ガウジが遮水層となり,これに規制されて基岩地下水が湧出するという水文プロセスの形態が推定された。基盤岩湧水の流出波形は,いくつかの類似したパターンに分類されることが分かった。このことから,降雨に対する変動を異にする複数の地下水帯が基盤内に存在していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
斜面崩壊の発生を解析するモデルの構築に向けて,入力データとしての原位置の地盤構造および水文構造に関するデータの取得を概ね順調に進められている状況にある。当初,花崗岩地質の流域のみにおける課題内容の検討を想定していたが,地質によって斜面崩壊発生プロセスが大きく異なることが予測されたために堆積岩流域においても原位置データの取得を進めることとした。また,当初の計画では,土層井戸や土壌水分計付貫入計(CPMP)を用いた土層の地盤構造および水文観測から斜面の水理地質構造を推定することに重点を置いていたが,原位置での踏査から,基岩を介する地下水流動が流域全体の水文プロセスおよび斜面崩壊に与える影響が大きいことが示唆されたために基岩ボーリング孔の水位観測および基岩湧水の湧出量の観測を優先して作業を進めているところである。原位置での地質調査および水文観測の成果として,地質構造に大きく規制された水文プロセスの様態が示唆されるデータが取得されてきている。水質分析については,電気伝導度およびpHの計測は予定通りの進捗状況であるが,水安定同位体比,無機イオン濃度,SiO2濃度の分析作業が若干遅れている状況にある。また,電気探査法を用いた基岩深部を含む比抵抗構造探査の作業は前年度から順調に進められているが,解析作業を順次進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き,原位置における水文観測を実施し,斜面崩壊の発生を解析するモデルの構築に向けて,入力データとしての原位置の地盤構造および水文構造に関するデータの取得を進める。前年度の観測から選択的な地下水流動経路の存在や断層粘土帯による遮水構造の存在が推察される箇所には,土層井戸や簡易ボーリングによる基岩内井戸あるいはテンシオメータ(間隙水圧計)を増設し,より詳細な水理地質構造の実態解明を進める。土壌水分計付貫入計(CPMP)を用いて,土層厚および斜面の水分分布状態を詳細に把握する。一方で,電気探査法を用いた比抵抗分布探査を高密度に実施し,基岩深部の水理地質構造の情報を収集することにも注力する。特に,降雨時の比抵抗分布を経時計測し,これによって雨水流動を規定する地盤構造(地質構造)を詳細に把握する。水質分析については,土層井戸,ボーリング孔,流出水,渓流水の水試料について, pH,電気伝導度,水安定同位体比,無機イオン濃度,SiO2濃度を測定し,水安定同位体比から滞留時間の推定を行い,また,無機イオン濃度,SiO2濃度の結果を基に流出起源および経路の推定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
基岩ボーリング孔の掘削,間隙水圧計の設置,CPMPによる貫入試験などの山地流域での現場作業を伴うため,レンタカー借上費,調査交通費を計上する。また,現場作業,水質分析作業,データ処理に多大な労働力を必要とするため,謝金経費を計上する。土壌水分計付貫入計(CPMP)による土壌水分計測を実施するにあたり,消耗品である着脱式プローブを購入する。地下水位,間隙水圧のデータ収集のために水位計,圧力センサー,ポーラスカップ,塩ビ管,電気ケーブル,データロガーを購入する。比抵抗探査を実施するにあたり,電極棒及び電極ケーブルを(追加)購入する。水質分析を実施するにあたり,(所属機関に現有の)水質分析装置のカラム,サンプルボトル,バイアル瓶,試薬を購入する。研究成果発表のための論文投稿費,英文校閲費,および学会参加のための旅費を計上する。
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