生息場所や産卵床の提供など河川生態系に多面的な機能をもつ河川間隙水域は、その広がりや機能が時空間的に変動することが認識されている。しかし、その要因に関する研究はほとんどなかった。そこで本研究では、間隙水域の動水勾配と細粒土砂量の変動を調査し、河川間隙水域の広がりの変動を評価した。土砂流出量が多い山地渓流において、ピエゾメターを用いた定点観測とトレーサー実験などフィールド調査を軸とした。 定点観測の結果より、斜面からの水の流れが増える降水時においても、動水勾配はあまり変動しないことがわかった。湧昇河床の動水勾配は少し大きくなるが、伏流河床の動水勾配はほとんど変動しない。透水係数に影響する細粒土砂量は、降雨時に河川水の細粒土砂濃度が高くなり、降雨直後の伏流河床での細粒土砂濃度も高い。しかし、透水係数が変化する程度の細粒土砂量の侵入はなく、目詰まりをおこしていないことがわかった。細粒土砂濃度に変動は、河床全体ではなく伏流の傾向がみられた河床であり、湧昇河床では大きな変動はなかった。これらフィールドでのデータを用いて地下水モデルでシュミレートすると、河川間隙水域の広がりや伏流量に変化が少ないことがわかる。また、伏流河床の方が細粒土砂の有機物の割合が高く、湧昇河床の方が溶存酸素が低く、間隙域の環境の空間的ばらつきが大きいことが示唆された。 山地渓流の複雑な地形によってつくられた河川間隙水域は、既存の研究の結果と異なり、動水勾配も透水係数も変動が小さく安定した広がりと伏流量をもっていることがわかった。ただ、伏流河床においては有機物の割合の高い細粒土砂が降雨時に侵入するなど、河川間隙域のプロセスが時間的に変動していることが示唆された。今後は、有機物量の変動と栄養塩の滞留・変換プロセスの関係を調査し、下流の水質への寄与の高い渓流域において、流路内プロセスが水質形成に与える影響を研究したい。
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