本研究は、都市近郊林の今後の林相変化や種多様性の維持に関わる被食種子散布における生物間相互作用に焦点を当て、森林面積の減少、断片化、遷移による種構成の変化といった林分属性の変化に対し、どのようにその相互作用が変化するのか定量的に明らかにすることを目的としている。これまでの研究から、遷移が進行し森林が発達するほど鳥類の飛来が多くなることが明らかとなってきたが、本研究の最終年度である平成27年度は、これまで追跡してきた京都市近郊林における遷移段階の異なる林分(落葉広葉樹二次林;「落葉林」、コジイ優占林;「コジイ林」)での鳥による果実の被食散布パターンについて、群集レベルでの結実フェノロジーや被食散布の違いを総合的に評価するとともに、そうした鳥散布樹木群集の中で重要なカナメモチおよびサカキに対する鳥の採食パターンを詳細に調べた。研究成果の骨子は以下の通りである。
1.1月に果実が成熟するカナメモチは、両林分において繁殖幹数、果実生産量がともに多く、林分レベルの豊凶を決定づけていた。カナメモチの豊作年において「コジイ林」での冬期の鳥の飛来数が特に多くなり、サカキやヒサカキなどその他の樹種の被食種子散布パターンにも影響している可能性が示唆された。 2.カナメモチの被食パターンについて、豊作年において「落葉林」では、鳥類がカナメモチに集中して飛来し、種子が樹冠下に集中して落下するのに対し、「コジイ林」ではより広範囲に鳥類が移動している可能性が示唆された。 3.林分レベルでのサカキの被食時期について、「落葉林」よりも「コジイ林」では、被食率が一定して高く、特に林分の豊作年においては主な被食時期がサカキの果実が林床に落下した後の1~3月と遅くなる傾向がみられた。「コジイ林」での被食率の高さは、冬期の地上における鳥類の採食行動が関係している可能性が示唆された。
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