ブナの幹や枝の呼吸能力と、葉特性(葉の量、光環境)の関係を、開葉直後の5月から落葉直前の10月下旬まで、季節を通して調べた。そして、呼吸能力の推定に一般的に使用される枝や幹のサイズ(直径、表面積、体積など)よりも、幹枝が支持している葉の特性により強く依存するという仮説を検証した。具体的には、葉特性、サイズを説明変数に、呼吸能力を目的変数にした重回帰モデルをつくり、その推定精度を比較した。その結果、葉特性を考慮しても、サイズの場合と、ほとんど推定精度が変わらないことがわかった。呼吸能力の測定は、一定温度(23℃)、切断法(1日以内に測定)、被陰下で行ったため、樹液による呼吸CO2の持ち去りや、樹皮光合成による呼吸能力の過小評価の影響はない。最も精度が良いモデルは、サイズと齢を変数にした場合であり、それは個体全体の呼吸能力の約74%を説明した。これは過去に行われたマツ属の研究結果と一致する。葉特性を考慮してもモデルの精度が上昇しなかったことから、枝や幹の呼吸能力は、梢端部にある葉特性とは無関係に決定されているといえる。つまり、被陰や老化によって葉が脱落した場合でも、枝や個体は呼吸能力を低下させて炭素固定の効率を維持するような、適応反応はないといえる。被陰された枝や個体では、炭素固定量が急激に低下すると予想される。
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