枝や幹(木部器官)の呼吸能力を推定する際に、ある一部で測定した呼吸能力を器官のサイズ(直径や体積など)で拡張することが多い。しかし、サイズには生育細胞だけでなく死滅した細胞も含まれるため、その手法には大きな誤差が含まれる危険性がある。生育細胞には梢端にある葉へ水や養分を輸送するという役割があるため、木部器官の呼吸能力の変化には器官サイズだけでなく葉特性(重量や面積)が関与している可能性がある。 この仮説を検証するために、ブナを対象にして葉特性と呼吸能力の関係を調べた。具体的には、15年生のブナ5個体の様々な位置にある枝や幹について、呼吸能力と器官のサイズ、齢、解剖学的特性、梢端の葉特性を破壊的手法で調べ、呼吸能力を規定する要因を探索した(合計160か所)。その結果、予想に反して、呼吸能力を最もよく説明したのは体積(サイズ)であり、その次に器官の齢の影響が大きいことがわかった。葉特性を考慮しても樹皮呼吸の再現精度は向上せず、これらの傾向は器官の位置や種類、サイズに関わらず同じであった。15年以上のブナ木部器官の呼吸能力は、梢端にある葉の状態に影響されない。つまり、被陰や傷害によって葉群の生産力が低下しても、それを補償するような呼吸の適応反応はないといえる。 また、ブナ以外の樹種、成熟個体についても上記の仮説を検証するために、3次元レーザースキャナーを用いた葉面積分布の推定を行った。しかし、レーザーによる間接推定は葉量を過大評価したため、樹冠の中からもっと高密度でレーザーを照射する必要性がある。今後は、レーザーによる葉分布推定方法を確立し、葉と木部器官の機能的関係について、樹種や個体サイズによる違いを調べる。
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