森林土壌中での水質形成過程において選択流の果たす役割については未解明な点が多い。本研究では、森林土壌中の溶存物質の移動における選択流の寄与を明らかにすることを目的として、斜面上部と斜面下部の2地点で、表層と下層の2深度にゼロテンションライシメータとテンションライシメータを設置して土壌水を採取した。なおゼロテンションライシメータは粗大孔隙を経由する水の採取を、テンションライシメータはマトリックスを経由する水の採取を意図したものである。 その結果、斜面上部では粗大孔隙経由の移動量がマトリックス経由よりも支配的であり、粗大間隙経由の溶存炭素の年移動量は全体の8割(下層)から9割(表層)を占めていた。一方斜面下部では、マトリックス経由の移動量が粗大間隙経由よりも支配的であり、粗大間隙経由の溶存炭素の年移動量は全体の0.1割(表層)から2割(下層)を占めるにとどまった。これらのことから、斜面上部と下部では粗大孔隙が溶存物質を輸送する機能に違いがあり、斜面上部では高い溶存炭素濃度の地表水を深部に輸送する経路として粗大間隙の寄与が大きいことが明らかになった。また、毎年夏期に降雨が集中的に供給され本試験地は、雨水の供給速度が土壌マトリックスの吸水速度を上回る状況が度々発生することにより選択流が発現しやすい条件下にあると考えられた。
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