研究課題/領域番号 |
24780166
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
高野 真希 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 助手 (10444192)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ペーパースラッジ / エタノール / 発酵糸状菌 |
研究概要 |
製紙工場から排出される製紙汚泥であるペーパースラッジ(PS)は、大部分は焼却した後、埋立て処分となるため、二酸化炭素の排出および廃棄物過多が問題となっている。そこでPSに含まれるセルロースやヘミセルロースをバイオマス燃料の原料とし、申請者らが研究を進めている新規Xylose発酵糸状菌を用いてPSからのエタノール生産について検討し、効率的なエタノール生産プロセスの開発を目的とし、研究を行った。 まず、Klason lignin法を用いてPSに含まれるセルロース、ヘミセルロース、リグニン、灰分(無機分)の含有量の分析を行い、それぞれの成分の含有量を測定した。その結果、PSの組成はセルロース19%、ヘミセルロース10%、有機物23%および無機物48%であることがわかった。また、無機成分中の成分を調べた結果、Na, K, Mg, Caイオンが主に含まれ、特にNaイオンとCaイオンが多量に含まれていることがわかった。 次にPSから効率よく発酵糖を生成するため、セルラーゼの最適化を行った。当研究保有の14種類の市販セルラーゼ剤を用いてPSの加水分解について比較検討を行った。その結果、Accellerase(A)、Meicerase(M)およびPectinase(P)がPSの加水分解に適していることがわかった。そこで3種類の酵素剤の配合比を実験計画法(DOE)ソフトであるDesign Expert 8を用いて最適化したところ、A:M:P=1.907:0.384:0.710の混合比のセルラーゼカクテルがPSの加水分解に望ましいことがわかった。 さらに、最適化したセルラーゼカクテルおよび新規発酵糸状菌Mucor javanicus J株を用い、同時糖化発酵によるPSからのエタノール生成について検討した。その結果、培養96 hで100 g/LのPSから9.1 g/Lのエタノールが生成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画は1.ペーパースラッジ(PS)の成分分析、2.PS含有成分の加水分解酵素の最適化および発酵糸状菌の培養条件の検討である。 PSの成分分析はKlason lignin法を用いてPSに含まれるセルロース、ヘミセルロース、リグニン、灰分(無機分)の含有量の分析を行い、それぞれの成分の含有量を測定し、PSの組成を決定した。また、電気伝導度系を備えたイオンクロマトにより主要な陽イオンを分析し、PS中の無機成分に含まれる陽イオンはNa、 K、 Mg、Caイオンであり、特にNaイオンとCaイオンが多量に含まれていることがわかった。 次にPS含有のセルロースおよびヘミセルロースを効率よく発酵棟へ変換するため、セルラーゼ剤の最適化を行った。PSの加水分解に適した市販セルラーゼ剤の選択およびそれらの最適混合比を実験計画法(DOE)ソフトであるDesign Expert 8を用いて算出することができた。また、この最適化セルラーゼカクテルおよび新規発酵糸状菌Mucor javanicus J株を用いた同時糖化発酵によるPSからのエタノール生成について検討を行い、PSからエタノール生成ができることを確認している。さらに高効率なエタノール生成を目標とし、培地条件などの培養条件の検討中である。以上の理由から研究はおおむね順調に進展中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までは生PSを用い、その成分分析、セルラーゼカクテルを用いたPSの加水分解および発酵糸状菌によるPSからのエタノール生成について検討を行った。しかしその加水分解およびエタノール生成効率は低いため、今後はPSの前処理や詳細な条件検討を行うことにより、これら効率の向上を目指す。 PSは一般的なセルロース系バイオマスである木質系および草本系バイオマスとは異なり、多量の有機成分および無機成分を含んでいることが成分分析結果より明らかになった。そのため、従来のセルラーゼによる加水分解および発酵糸状菌によるエタノール生産と比較して阻害物となりうる物質が多数含まれていることが予想される。そこで、より効率的な加水分解およびエタノール生成を達成するため、温度、pH、培地成分などの条件をより詳細に検討する必要がある。特に、多量の無機成分を含むことにより、PS懸濁液のpHが高く(約8.5)、さらに炭酸カルシウムを多く含むことから緩衝作用を示すことが問題点となっている。セルラーゼ剤による加水分解や発酵糸状菌の培養を行うにはpHを下げる(約5.5)必要がある。そのため、PSから無機成分を除去する方法について重点的に検討を進める。PSから無機成分を除去することができれば、より効率的な加水分解およびエタノール生成が可能となるだけでなく、除去した成分から製紙工程に有用な無機成分(特に炭酸カルシウム)を再生することにより、無機成分のリサイクルも期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は前年度に検討したPSを原料としたエタノール生産のための条件をもとに、加水分解酵素と糸状菌を用いた同時糖化発酵における培養条件および無機成分のリサイクルのために含有成分の分析も必要である。また、スケールアップした際の環境についての検討を主に行う。以上のことから培養試薬および培養のためのガラス器具を中心に、分析試薬、機器使用料、バイオリアクターなどに研究費を使用する。また、研究の成果を様々な学会や国際会議において発表するため、その際に係る旅費等に使用する。
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