研究実績の概要 |
2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)は木質系芳香族バイオマスから組換え微生物発酵により生産されるプラットフォームケミカルスであるが、I族のアルカリ金属キレーターというユニークな特徴も持ち合わせている。また、同じI族のアルカリ金属の中でも特にCsと優先的に相互作用し錯体沈殿を生じることから、現在深刻な問題となっている放射性セシウムの沈殿除去に使用できると考えられた。そこでPDCによるPDC-Cs錯体形成能を検討するために、まずは実験に使用するPDCを組換え微生物発酵により作成した。PDC高生産組換えバクテリアPseudomonas putida PpY1100/pDVZ21を高密度培養し、そこにバニリン酸を滴下することによりPDCを発酵生産した。得られた発酵液から連続溶媒抽出および再結晶による精製を経て高純度PDCを得た。このPDCを用いてPDC-Cs錯体結晶を作成し、X線結晶回折により構造を特定した。その結果、PDC-Cs錯体は2つのCs原子を12のPDC分子が取り囲むように相互作用し、巨大かつ複雑な錯体を形成していることが明らかとなった。さらにPDC水溶液によるCs捕捉能試験を行ったところ、PDCは100ppm程度のCsまでは水溶液中で捕捉することが出来るがそれ以上低濃度になると、錯体を形成できなくなり、除去できないことが示唆された。この問題を解決するためには、PDC固定カラムの作成が必要であると考えられたが、PDC-Cs錯体形成にはPDCの全ての官能基が関わることが構造解析により明らかとなっていることから、化学的に新たな足掛かりが必要であった。試行錯誤の結果、PDCからδ-バレロラクトンに変換することで、PDCを固定したカラムの合成経路を設計することができた。これらの結果をChileで開催されたLignobiotech IIIで発表し、ポスターアワードを獲得した。
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