研究課題/領域番号 |
24780179
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西谷 豪 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (70450781)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 二枚貝 / 幼生 / 分類 / 生態 / 松島湾 |
研究概要 |
2012年度は本研究の対象海域である宮城県松島湾での調査を計15回行った。水温・塩分を記録し、プランクトンネットによって採集された二枚貝のD型幼生の形態を記録し、遺伝子解析により種を同定した。 300個体を超える幼生の解析を行った結果、少なくとも20種類を超える二枚貝が松島湾に存在していることが判明した。300個体の構成種は、ホトトギスガイ(約50%)・マガキ(15%)・フナクイムシ(8%)・ニオガイ(5%)・ムラサキイガイ(3%)・アサリ(2%)・その他(17%)であった。これら二枚貝幼生の遺伝子配列(核18S rDNA、核28S rDNA、ミトコンドリア16S rDNA、ミトコンドリアCOI)を決定し、新規の情報を数多く得た。本研究では、宮城県の養殖産業にとって最も重要なマガキの幼生について、形態や遺伝子解析から判別し、現場における動態把握を目標としている。マガキのD型幼生について、各部位のサイズを詳細に計測し、他の二枚貝幼生と比較・解析したところ、ホトトギスガイ・フナクイムシ・ムラサキイガイ・アサリなどの幼生とは形態で判別可能であるが、ニオガイ科の二枚貝幼生との区別は困難であった。 2012年度に行ったもう1つの研究として、二枚貝幼生が現場でどのような生物を餌料にしているのかを解析した。二枚貝幼生はサイズが小さいために胃の内容物を取り出すことができないため、二枚貝幼生1個体を洗浄後にそのままチューブに入れ、全DNAを抽出して餌料生物の特定遺伝子をクローニングによって解析した。その結果、これまで示唆されていなかった生物群の遺伝子が二枚貝幼生の体内から検出され、海洋生態系における新たな連鎖網を見出した。これらの成果は幼生の種苗生産技術にも応用できると期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した内容は以下の通りである。 宮城県松島湾は広島県広島湾と並び日本におけるマガキ養殖の2大産地の1つであるが,震災による大津波によって養殖場は壊滅的な状況に追い込まれた。そこで本研究では,松島湾におけるマガキ養殖再生への一助となることを目的とし,以下の研究項目を実施する。 1)マガキの餌となるプランクトンの現場出現状況(密度,種組成)を詳細に調査 2)マガキ(幼生と成体)の腸内にあるプランクトン種をDNA解析により特定 3)マガキ成体の成長具合(大きさ,湿重量,グリコーゲン量,アミノ酸組成)を検査 4)餌の出現状況とマガキの成長具合を毎年比較・検討することにより,好適な餌料環境を解明 5)好適な餌料プランクトン種を海域から採取し,マガキの室内種苗生産現場へ提供 2012年度は2)のマガキ幼生と成体の体内から餌料のDNAを検出し、解析することをすでに終えている。餌料プランクトンの正体が判明しつつあり、1)の餌料プランクトン調査も同時進行で進めいてる。3)以降の内容については2年目、3年目の課題として取り組む予定である。以上の理由から、1年目を終えた本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目となる2013年度は、まず現場におけるマガキ幼生の出現動態について、正確に把握することを目標とする。1年目の成果において、マガキ幼生の形態と遺伝子情報を把握することができたため、その他の二枚貝幼生と区別して計数を行うことが可能になる。マガキ幼生と形態が類似しているニオガイ科の幼生については、マルチプレックスPCR法による判別を検討している。マガキ養殖において最も大きな天敵となるのがマガキと同箇所に付着して成長するムラサキイガイの存在である。2013年度はムラサキイガイの幼生の出現も詳細に把握することを目標とする。 また、引き続き二枚貝幼生の餌料生物の解析を行う。特にマガキ幼生の餌料を解明し、他の二枚貝幼生の餌料との比較を行う。また、マガキ幼生はその成長段階によってD型期~アンボ期~変態期と段階を経るが、それぞれの段階について餌料生物を解析することを試みる。それに伴い、餌料プランクトンのモニタリングを行い、マガキ幼生発生量との関連性を考察する。さらにその餌料プランクトンを現場海域から分離培養し、株を得ることを目標とする。 また、有毒プランクトン調査も同時に行う。マガキはプランクトンを餌料としているが、有毒プランクトンの発生時にはマガキの出荷が規制される。震災後、三陸沿岸域では有毒プランクトンが大量発生する傾向があり、有毒プランクトンの発生モニタリングに加え、それらの分類や計数法に関して地元の漁業者へ情報提供を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
2年目となる2013年度は現場サンプリングを本格的に行う予定であり、そのために必要な旅費やその他経費(レンタカー代など)を使用する。2013年度は合計20回ほどの松島湾サンプリングを予定している。幼生の計数は顕微鏡観察による方法とマルチプレックスPCR法の両方を検討しており、遺伝子解析に伴う消耗品(試薬類、チップ、プレートなど)、その他経費として外注費(シークエンス)を使用する。 餌料生物の遺伝子解析も引き続き行うため、上記に示した試薬類や外注費を使用する。 2013年度は50万円以上の機器類を購入する予定はない。 また、学会発表・英文校閲・論文投稿料にも研究費を使用する予定である。
|