本研究課題では、その成果が東日本大震災により甚大な被害を受けた宮城県松島湾におけるマガキ養殖再生の一助となることを目的とした。最終年度では、マガキ幼生が現場海域で具体的にどのような生物種を摂食しているのかを詳細に解析した。餌料環境は幼生の生き残りにとって大きな一因であるため、幼生期における餌料生物種を解明することは重要な意味を持つ。松島湾から採取した天然のマガキ幼生100個体以上を材料として用い、遺伝子クローニングによって幼生の体内に残存する餌生物のDNAを検出した。合計500以上の配列を解読した結果、その多くは小型の珪藻であり、可能なものは種レベルで特定した。また、マガキ幼生の大きさは成長段階によって80-250ミクロン程度であるが、その成長段階によって摂食している餌生物が少しずつ異なっていることを明らかにした。 研究期間全体を通して、上記以外にも下記の成果を挙げた。調査の結果、松島湾に出現する二枚貝の幼生はマガキを含め35種類程度であることが分かったが、その形態は非常に似通っており、特に初期幼生の形態判別はほぼ不可能であった。そこで遺伝子による判別法(マルチプレックスPCR法)を開発し、松島湾に出現する主要5種の二枚貝幼生を正確に判別することが可能となった。実際にこの手法を用いて現場モニタリングを実施したところ、マガキ幼生の正確な出現量をモニタリングすることに成功した。この成果は、マガキ幼生の採取量・出荷量が日本一の宮城県においては重要である。特に2013年と2014年は松島湾においてマガキ幼生が例年の半分ほどしか採取できない年が続いたため、本成果によるモニタリング結果が地元関係者から強く求められている。 これらの成果の一部は学会等ですでに公表している。また、松島湾に出現する二枚貝幼生の形態を「下敷き」にしたものを作成して漁業者へ無償配布し、好評を得ている。
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