研究課題/領域番号 |
24780180
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
今 孝悦 筑波大学, 生命環境系, 助教 (40626868)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 河口 / 砂浜 / 他生的資源 / 異地性流入 / 安定同位体 |
研究概要 |
河口域は、海洋生態系の中で最も高い生産性を誇り、食糧供給や二酸化炭素吸収、水質浄化作用を通じて人類に多大な恩恵をもたらす。しかし、そうした生態系機能の拠所となる生物生産過程については踏み込んだ議論がなされておらず、その理解は大きく立ち遅れている。本研究では、既往研究に基づき、河口域の有する高い生産性が、海洋と河川から流入する資源、すなわち、他生的資源に依存すると考える。そして、そのような他生的資源が、餌資源としてだけではなく、生物に隠れ家や巣穴の材料を提供することで空間資源として機能すると仮定し、その機能を検証することを目的とした。 本年度は天然環境での他生的資源量と底生動物の分布状況の対応関係を記載した。調査は静岡県下田市近傍の鍋田浜、大浜及び弓ヶ浜に注ぐ3 つの河口域で行った。いずれの河口域も砂浜が発達しており、砂浜を主要調査地とした。それぞれの砂浜において、毎月の大潮時に調査を行った。他生的資源の流入量を把握するため、満潮時および干潮時の表層水を300ml 採水し、ガラス繊維濾紙で濾過して、濾紙上に懸濁態粒子を捕捉した(各潮時でn=15 ずつ)。このうち、5 検体を強熱減量に供して総有機物量を求め、残り5検体をクロロフィル測定、他の5 検体を炭素・窒素安定同位体分析に供することで、有機物の由来を求めた。また、それら他生的資源の流入量に対応した底生動物の分布状況を把握するため、底生動物を定量採集を行った。採集には直径10cm、長さ30cm のコアサンプラーを用いて、底泥ごと採集し、それを目合い1mm メッシュでふるい、メッシュ上に残った底生動物を採集した。これを10%中性ホルマリンで固定し、種同定、計数及び評量した。その結果、底生動物の種数、個体数、生物量は、海および河川由の資源が多い浜で大きくなる傾向が認められ、他生的資源の重要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、年4回の野外調査を計画していたが、他の予定を調整することで毎月の調査を遂行することができた。これによってデータ量が増し、より一般性の高い理論を展開することで計画以上の成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は他生的資源が底生動物の生産過程に及ぼす影響を実験的に証明することを目的とする。実験には、野外操作実験および室内実験を併用する。野外においては、アクセスが容易な1河口域を選定し、他生的資源の流入量を操作した5 つの実験区(50×50cm)をそれぞれ10 区画ずつ設ける。各実験区の内訳は、四方を目合い1cm の網で囲い、空間資源となり得る大型の有機片の流入のみを排除した「空間資源排除区」、周囲にヤマトシジミ100 個体を埋没させ、餌資源となる小型有機物を全て消費させることで餌資源の流入のみを排除した「餌資源排除区」、上記2 つの処理を行うことで、大型・小型有機物の流入を全て排除した「資源排除区」、さらにそれら処理の影響を考慮するため、網の一部を開けて大型有機片が流入可能にし、かつ、ヤマトシジミ貝殻のみを埋没させた「資源排除対照区」、そして、一切の処理を施さない「対照区」である。設置後2 週間おきに実験区のメンテナンスを施し、以下の頻度で前年度と同様の手法で採集する。各実験区の10 区画のうち、5 つの実験区は3 ヶ月おきに採集・再設置を繰り返し、計4 回の季節データをとる(7 月、10 月、1 月、4月)。残り5 つは1 年後(4 月)に採集し、一年間の蓄積データをとる。これら季節データと年データを比較することで底生動物の増減過程を追跡し、他生的資源の多寡による底生動物の生産過程への影響を明らかにする。また、室内実験においては、前年度までの結果に基づいて各河口の上位優占種の5 種を実験に供する。予め半分に他生的資源を入れ、他方に自生的資源(その場で生産される底生珪藻)を添付した60×30×30cm のガラス水槽を用いる。優占5種のそれぞれについて1個体を水槽に入れ、どちらの区画に何個体が定位したのか記録することで、底生動物にとっての他生的資源の機能を直接提示する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度末の世界的なヘリウムガス不足によって安定同位体分析の効率化が求められ、多くのサンプルを一度に分析した結果、安定同位体分析に係る出張費の削減ができた。これによって次年度への繰越金を計上できたことが、当該研究費が生じた状況である。 その予算使用であるが、本年度で計画以上の成果が得られたため、それに対応すべく、次年度の実験系にも一般性の高い手法を用いることとする。すなわち、当初の繰り返し数を増加させることで信頼性を高め、さらに、安定同位体分析も追加することで、生産性の動態を詳細に追跡することとする。野外操作実験には排除区を設けるため、排除区設置用のスチールパイプ、スチール板、網ケージ、さらに標本を保存するための標本瓶、標本コンテナ、標本固定用薬品、および安定同位体分析用品が追加で必要となる。これらの経費を当該研究費でまかなうこととする。
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