研究課題
河口域は、海洋生態系の中で最も高い生産性を誇り、食糧供給や二酸化炭素吸収、水質浄化作用を通じて人類に多大な恩恵をもたらす。しかし、そうした生態系機能の拠所となる生物生産過程については踏み込んだ議論がなされておらず、その理解は大きく立ち遅れている。本研究では、既往研究に基づき、河口域の有する高い生産性が、海洋と河川から流入する資源、すなわち、他生的資源に依存すると考える。そして、そのような他生的資源が、餌資源としてだけではなく、生物に隠れ家や巣穴の材料を提供することで空間資源として機能すると仮定し、その機能を検証することを目的とした。本年度は底生動物の分布調査に加え、安定同位体分析による資源利用状況も検討した。調査は前年度と同様に静岡県下田市近傍の鍋田浜、大浜及び弓ヶ浜に注ぐ3つの河口域で行った。それぞれの河口域で、底生動物分布および他生的資源の流入量を検討し、さらに底生動物を炭素・窒素安定同位体分析に供することで、それらが利用している餌資源の起源を求めた。その結果、底生動物の種数、個体数、生物量は、海および河川由来の資源が多い浜で大きくなる傾向が認められ、さらにそれらは実際に他生的資源を餌として利用することが示唆された。すなわち、他生的資源は餌として底生動物群集を支えているものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
安定同位体分析のサンプル数を当初の予定数より大幅に増やすことで、より一般性の高い餌資源利用様式を明らかにすることができた。一方で、野外実験は限定的な試行に留まり、来年度に再試行を要する。
本年度に試行した野外操作実験は、調査地の人為的撹乱が大きかったため、再検討を要する。実験区の設定を限局し、検討内容を絞ることで対応する予定である。
人為的撹乱により、本年度に予定していた野外操作実験の試行回数が減ぜられた。このため、実験区設置に係る材料費に余剰が生じ、繰越金を計上できた。野外操作実験を縮小する一方で、調査海域および調査項目を拡充することで一般性を担保する。この拡充分を補填するために当該予算を使用する予定である。
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